第46話 彼氏彼女のピンチ ⑥

「──吐け、オマエは何を知っている!」

「だから言えないって……」

「リンちゃん、友達と先輩どっちが大事なの!」

「と……先輩。というか会長。ウチは黒川くろかわよりも会長の方がコワイ」

「あーしはどっちが大事かって聞いてんだ!」


 黒川さんは、いや僕たちは、朝から何をやっているんだろう……。

 この行動の早さは流石だし、近くには誰もいないが、登校時間中の学校の外なんだから人目はあるというのに。


 とはいえ、いきなり当たり、、、だとも思わなかったな。

 校舎の前で待ち伏せ、さも偶然を装い近づいて、かまをかけてしっかり引っかけるんだもんな。

 ゆいちゃんはもちろん黒川さんも十分に怖い……。


「『口止めされているから言えません』じゃすまさないぞ。あーしの幸せのお裾分けを悪用して!」


「アレはもう嫌がらせだろ!? 悪意が込もってる!」


「リンちゃんに彼氏ができますよーにの善意が悪意なわけあるか!」


「イチャイチャしてる写メを連日のように送ってきて、アタシにどうしろっていうんだ!?」


「あれを見て彼氏欲しいなら奮起しろよ。夏休みなんてそのためにあったようなもんだよ!」


 時間が経つにつれ二人の話が本題から逸れてきているのは気のせいではない。

 綾瀬あやせさんの口が重かった最初よりはマシだけど、時間もないし脱線はほどほどにしてほしいな。


 まぁ、あれに割っては入れないし、黒川さんに任せて僕は僕でできることをしておこう。

 ここまでを整理して見落としがないかしっかり確認しよう(昨夜を反省し)。


 まず、信治しんじくんから昨日得た証言によって浮上した、結ちゃんの行動の想像と実際との違いが現在こうなっている理由である、と。


 そしてその帰り道。僕たちは駅へと向かいながら推理し、結ちゃんが伯母さんのところに行ったということは、伯母さんが詳しく喋る前に誰かが、、、結ちゃんに僕たちのことを話したんだと導き出した。


 この情報源が姫川ひめかわさんや高木たかぎくんだったなら、結ちゃんは伯母さんのところに行っていなかっただろう。

 おそらく結ちゃんは情報量が足りず、それを補う目的で伯母さんのところに直接行ったのだと思われる。


 わざわざ直接訪れてというのも理由がある。

 結ちゃんは嘘を見破るのが得意だから、相手が目の前にいた方が都合がいいんだ。

 結ちゃんに嘘は通じない。嘘なんて言おうものなら……考えるのやめておこう。


 まとめると情報源(犯人)というのは綾瀬さんだった(あと黒川さん)。

 綾瀬さんは黒川さんからの写メを結ちゃんに見せ、結ちゃんはそれを元に伯母さんのところに行ったが正解。


 しかし、まさか撮った写メを友達にシェアしているとは思ってもみなかった。

 写メは二人だけの思い出なんだろうとか思っていたのが僕だけだったとは……。

 黒川さんは黒川さんで何をやっているんだよ。


「──そ、そもそもだ。一条いちじょうが会長と従姉妹だって言ってないのが悪いんじゃないか。アタシは知ってたら知らんぷりしてたし!」


「えっ、急に僕!?」


「どうりで何か変だと思ったんだ。何で急に一条の話が出てくるのかわからなかったし、会長マジギレみたいで超怖かったし……あっ、」


「リンちゃん。今のどういうこと? オマエは本当に何を隠しているんだ!」


「い、言えない、言えないからーーっ!」


 うっかり口を滑らせてしまったのだろう綾瀬さんは逃走を図り、てっきり追うのかと思ったら黒川さんは追わない。

 どのみち二人は同じクラスであり、席も隣なんだから無理に追う必要はないということだろう。

 そして重要な証言が新たに出た。


「リンちゃんがどうして、、、、安斎あんざい先輩に喋ったのかはわからなかったわけだけど、今の反応を見るにこれは決まりだね」


「綾瀬さんだけじゃなくもう一人、、、、は確実に誰かいたんだ。そしてその誰かは友人AからDの誰かであると」


「うん、それなら辻褄がぴったり合う。リンちゃんが一条たちのことを知らなかったのは間違いないし、逆に知っていた人間もその四人しかいないわけだし」


「綾瀬さんが単独ではなかったのがわかったからには、予定通り四人にも話を聞かないといけないね」


 僕が黒川さんと付き合うと決めたところから、一切音沙汰がない友人たち。

 彼らとは夏休みが明けからタイミングを見つけて話をしようと思っていたからちょうどいい。


 その黒川さんとの問題がきっかけというのが問題だけど、まぁ何とかなるだろう。

 始めは任意補習中も、新学期になってからも、顔を合わせてはいる同じクラスの友人Aからからだな。


「……ところで一条。さも自分は被害者ですみたいな感じだけど、一条が気がついたことで安斎先輩は怒っているかもしれないんだからね。むしろ積極的に怒った方がいいかもしれない案件だからね」


「はい。結ちゃんには謝ります」


「さて、今日中に裏を取って週末を迎えられるようにしよう」


「そうだね。本番はそっちだからね」


 寝る前に気づいた結ちゃんに関するあれこれはすでに手遅れで、結ちゃんには謝るけど僕たちのプランに変更はない。


 それでもこうして動いているのは、罪悪感であり、自己満足であり、わがままだ。

 あるいは、こうならなければ向き合わなかった結ちゃんに完勝するために必要だから。

 それが弟分である僕の姉離れの正式な宣言でもある。

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