第45話 従兄弟の信治くん

 もう一人の従兄弟である信治しんじくんとの会話は、現状へと繋がる新たな事柄と、僕と従兄弟と従姉妹との関係性を考えさせるものだった。


 言われるまでわからなかったこと。

 気にしてすらいなかったこと。

 考えたこともなかったことと、一度しっかり整理しないといけないくらいの情報量があった。

 ゆえに眠りにつく前に内容を整理しておこう。


 まず目的であった伯母さんが出かけていて留守だったのと、黒川くろかわさんが食べていくと聞かなかったのとで、まったく予定になかった信治くんに経緯を話した(上手いこと聞き出されてしまった)のが発端である。


「へぇ、やっぱり仲いいのな。ユイちゃんと」

ゆいちゃんと仲がいいのかは置いといて」

「置いとくなよ。聞いた限り一番大事だろ、そこ」

「でも、本当に仲がいいってわけじゃないし……」

「ったく、いいかつかさ──」


 伯母さんと同様に聞き上手な信治くんの感想は他の誰が言うよりも的を得ていて、これ以上ないくらい僕には必要なものだった。

 何故なら信治くんは結ちゃんと同じ、、立ち位置であり、比較対象としても唯一の存在であるからだ。


 しかし、信治くんとは同じ町に住んでいる期間も、おそらく付き合いも結ちゃんより長いが、それでいて必要以上のことを知らない間柄。

 僕はこれまでそれに違和感なく過ごしてきたが、今は違いを認識したからか不思議に感じる。


「──オレたちは互いに必要以上のことを知らない。互いの家を行き来しないし会うこと自体も稀だ。同じ月にこんな何回も会うなんて初めてじゃないか?」


「そう言われるとそうかも」


「だろ。で、これはおふくろと叔父さんの実家が近くにあった頃からだ。店を出すってこっちに越してきてからも変わらない。オレたちの距離が縮まらないってのが原因なわけだが、特にそれで不自由も困ることもないからな」


「そう言われるとそうだね」


「おふくろたちが仲良いからこうして会話するくらいはできるけど、もしおふくろたちを通して付き合いがなかったら会話すら怪しいと思う。例えばオレには兄貴がいるが、司は兄貴のことなんてわからないだろ?」


 信治くんにお兄さんがいるのは知っていても、自分は会ったことがあるのかないのかという記憶も不鮮明。

 お兄さんは仕事の関係で向こうに残ったらしいから、少なくとも引越してきてからはないとしか言えない。


 信治くんとも月に一回会えばいい方というのも間違いない。

 父が月に一度は家族を連れて伯母さんの店を訪れる時に会うくらいしか僕たちは顔を合わせない。

 花火大会の時と、約束していた手伝いの時と、伯母さんに用があった今日と、一ヵ月に何回も会う方が相当に珍しいんだ。


 以上を踏まえて考えると、信治くんが僕と結ちゃんとの仲がいいと言うのも頷ける。

 本当はそうでなかったんだとしても僕たちは仲がいい、、、、んだろう。


「それに昔はユイちゃん、ユイちゃんってくっついてたよな。オレになんて懐きもしないのに」


「そ、そんなわけが、嘘だよね!? 小さい頃の話だとしても記憶にないよ!?」


「今はすごく苦手とか思ってるから、自分に都合よく記憶を改ざんしてるんじゃないか? ユイちゃんにべったりだったのはお前の方だぞ」


「そんなことないと思うなー」


「あるよ。おふくろに聞こうが、叔父さんに聞こうが同じこと言うと思うぜ。オレはたまに会う親戚のお兄ちゃんでも、ユイちゃんは本当のお姉ちゃんと大差ないんだろ。だから鬱陶しいんだよ、何も言うことねぇ」


 僕も黒川さんも上の兄姉がいない。

 僕は歳が離れた弟がいるが、黒川さんは一人っ子だから弟も妹もいない。

 そんな僕たちにはわかるべくもないが、兄がいる信治くんだからわかることがあるのだろう。


 僕と結ちゃんを自分たち兄弟に重ねての信治くんの言葉を、間違いだと否定するだけの材料は見つけられなかった。

 いくら僕が違うと言おうとそこには何の根拠もなく、リアルがある信治くんの言葉のほうが現実的だから。


「──わかったよ! 鬱陶しいが違うって言うなら、お前がどこからユイちゃんが苦手になったのかが大事なんじゃないか? 何もなしに苦手なんて言わないだろ」


「そう言われて考えてみると、結ちゃんが厳しくなったところから、かな?」


「あの無愛想が厳しくなんてオレには普通に思えるけど、一番近い司が思うならそうなんだろう。小難しく考えるのは得意だろ。よく考えてみろよ」


 結ちゃんが厳しいと感じるようになったのは、こっちに引越してきてからだと思う。

 その前までは年一回程度しか会わなかったんだから間違いないだろう。


 何か変化があって結ちゃんは厳しく、僕はそんな結ちゃんが苦手になっていったのだとして、結ちゃんが変わる理由はなんだ?


 よく会うようになったから?

 学校が同じになったから?

 昔とはいえ自分にべったりだったから?


 ……どれもそうかと思えるし、どれも何か足りないような気もする。

 決定的にこれだというものがないってことは、複合的なものなのだろうか?

 それならわからなくはない、か。


「ああ、そういえばよ。直接関係あるかはわからないが、オレも一つ気になるところが出てきた。ユイちゃんと花火はいつからなくなったんだ?」


「?」


「お前、こっちくる前は盆送りの花火大会はユイちゃんとだっただろ。帰ってくるとお土産持ってきてその話してたよな」


 ……確かに結ちゃんの家で花火を見るのは毎年恒例行事だったけど、それは泊まりにきてた頃の話であり、引越してきてからは一度も行われていない。


 近所の友達と、学校の友達と、彼女と友達とと、僕は近年(引越してきてから)の花火大会の日を過ごしている。

 だが結ちゃんにはちゃんと、「友達といくから」と毎年言って……ないな今年。


 伯母さんに席を取っておいてほしいと頼んだり、任意補習と黒川さんと遊び歩いて忙しかったり、黒川さんとのことを結ちゃんにはバレないように必死でまったく頭の中になかった。


 ……えっ、これ関係ないよね?


 実は花火を見にこないのを怒っていて、彼女ができたことを黙っていたのを怒っていて、その上補導されそうになったのを怒っているとかじゃないよね!?

 難しく理由を考えるより確率ありそうで怖いんだけど……。

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