第44話 彼氏彼女のピンチ ⑤
あーすればよかったとか、こーすればよかったかもとか、もっと早く気づけていればとか、どれだけ後悔しようと次の日はそれに構わずやってくる。
まるで自分で自分を責めることが無意味だと言うように日は前へと進む。
加えて時間が経つにつれ、
これにより後悔を抱えるしかないという状況を、自分はまったく想像できていなかったんだと理解した。
そして自分も同じような状況になってみてわかった。
内容は異なるがこの消したくても消えない、心身にのし掛かる後悔というものに、自分一人で答えを出した姫川さんはすごいと。
姫川さんが
しかし昨日今日で姫川さんが
「はぁ……」
あまりの体たらくにため息もでる。というか、ため息しか出ない。
でも、そんな情けない僕にも救いはある。
幸いなことに僕は姫川さんから後悔への答えを聞いている。
もし僕が一人で一から答えを探さなければならなかったなら、途中で後悔に押しつぶされていただろうから助かった。
問題は答えを知っていたところで、すぐには気持ちの方がついてこないということだ。
僕が
結ちゃんはこれまでどんな気持ちで、どんなことを思っていたのだろうとか。
それらにまるで意識が向かない自分は本当に何をしていたのかとか。
自分自身が愚かすぎて立ち直れない……。
「はぁ……」
「
「うん、ごめん……」
「今日は一日そんなだったぞ。当たり前のことに気づいてへこむな。現実に目を向けて切り替えろ」
隣を歩く
言葉で言うのは簡単だけど、気持ちがついてくるかは別なんだ。これも体験するまで知らなかった。
おかげで今日一日はこんな調子で何もできていない。
「よし! ここからは切り替えて、いこう……」
「メンタル弱っ。ほら、信号変わったから行くぞ!」
「ご迷惑をおかけします」
「まったく……。せめて虚勢くらいは張っててね」
黒川さんの言う通り今日はわざわざ足を延ばして来たんだ、虚勢だろうと張って「どういうつもりなんだ」と伯母さんを問い詰めなければならない。
アポなしの突撃になってしまったがそんなことも言ってられないんだ。頑張ろう。
「──で、伯母さんいるかな?」
「何度掛けても留守電だったから忙しいのかもよ」
「それはないんじゃない。お店、ガラガラだよ?」
「なら、やっぱりバツが悪いのか。勝手な」
黒川さんに手を引かれて渡った横断歩道の先、もうすぐそこが海なところにある道の駅。
先日。ここの海岸で行われた花火大会の日が嘘のように飲食店が入る道の駅はガラガラで、伯母さんのやっている店は大丈夫なんだろうか?と心配になる有り様だ……。
今日は普通に平日で、夏休みも終わっていて、もう海水浴客もいないとしてもこれはひどくないだろうか?
それでも明かりはついているんだから、道の駅自体は営業はしているらしい。
「──やってるみたいだし行ってみよう」
「そういえばこないだは建物の中には入らなかった。道の駅ってどんな感じなの?」
「あぁ、端から飲食店が数軒とお土産物屋さんが主な感じかな。あとはこないだみたいに建物の前にテントが出て野菜売ってたり、瀬戸物市やったり、イベントなんかがいろいろあって結構賑わっているんだけど……なぁ」
「とてもそうは見えない。前回の賑わいを見てなければ信じられない」
僕も家から遠くはないが必要がなければ訪れないし、イベントの類は土日に集中するわけだから平日に来るというのは初めてかもしれない。
しかしこれは、どういうつもりで結ちゃんに喋ってくれたのかと伯母さんを問い詰めるには好都合かも。
「こんにちは。伯母さんいる?」
「こんにちはー」
外から見た通りカウンターには誰もおらず、厨房である奥に向かい声をかけるが反応がない。
BGMは流れているが人の声も聞こえない。
もしかしてバツが悪くて隠れているとかだろうか?
「へぇ、元々は倉庫だったのを改装したってのは聞いたてたけど、中はこんふうになってるんだ。オシャレ、オシャレ。メニューはどうかなー」
「黒川さん。僕たち食べにきたわけじゃないよ」
「前回何も注文してないし、せっかくだから注文します。補填分が現金で補填されたから、電子マネー使えなそうなここでも大丈夫だしー」
黒川さん、マイペースだなぁ……。
メニュー表に夢中みたいだし僕が率先して動かないとダメだ。店側にいないってことは裏か?
厨房を横切ったら怒られそうだし一度出てから、いや待てよ。伯母さんがいなくても、
「おっ、誰かと思えば
「
「そっちのちびっ子は彼女なんだっけ?」
「ちびっ……」
伯母さんはいなくても従兄弟の信治くんはいるだろうと思ったら、本人がビールケースを持って厨房から出てきた。
しかも割と失礼なもの言いをしながらだ。
すごく伯母さんとの血の繋がりを感じる。
あと、黒川さん。僕を睨まないでもらいたい……。
「信治くん、伯母さんは?」
「出かけてる。忙しくなる頃には戻ってくるけど、まだ時間あんな。なんか用か?」
「用事なんだけど、忙しくって? 今のところ誰もいないけど?」
「そりゃあ平日だからな。平日の主な客は港の関係者と近所のおっさんたちだ。今から忙しくなんだよ。この酒も今日の分なんだぜ」
信治くんは冷蔵庫に瓶のビールを移していく。
あの量がなくなるとは信じ難いが、すぐそこが海で、さらにすぐそこは港。
小さな港でも漁業関係者はそれなりにいるだろうし、近所の人もとなると下手すると満席になるんだろうか?
「で、用事って? オレにじゃ無理か」
「えーと、結ちゃんのことなんだけど。信治くん、結ちゃんってわかるよね?」
「あー、あの無愛想なちびっ子な。つーか司、お前ちびっ子が好きなのか? 彼女しかり、ちびっ子しかり」
「さっきから黒川さんの視線が痛いんだ。そのちびっ子って言うのやめてくれる!? すごく失礼だからね!? はっ──」
フォローしたつもりが僕の口から出たからだろう。バシッと強めに肩の辺りを叩かれた。
いつぞやのようにパンチでないだけよかったけど、あまりイライラは解消されてないぞ……。
「悪い悪い、気をつけるよ。で、ちびっ子だったな」
「気をつけるの意味わかってる!?」
「わかってるって! ちび……ユイちゃんなら先週ここに来たぞ。何の話してたのかはわからんけど、おふくろと喋ってたな」
「えっ、結ちゃんがここにきたの?」
伯母さんが言いに行ったのではなく、結ちゃんがここに聞きにきた?
それは僕はもちろんまったく予想できていなかったことで、イライラしていた黒川さんも意外だったらしく、僕たちは二人で顔を見合わせた。
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