第42話 彼氏彼女のピンチ ③
「……」
「……。」
僕は過去これほどまでに人に言われた事を聞かなかったことを後悔したことはないだろう。
もし過去に戻れるなら言われた通りにするべきだと自分に言う。
しかしそんな事は不可能なので、どこからダメだったのかと考えてみるがそれもわからない。
「…………」
「…………。」
帰り道は同じなんだから
それに、わざわざ席を譲ってもらってあれだけど、気を使ってくれなくてよかったのにと思う。
むしろそのままでよかったのに。もしくは彼女にもそのまま残ってほしかった。
「
「……雨が強くなる前に帰りなさいと言いました」
「ちゃんと聞こえていたならいいです」
荒れた天気のせいで帰りの学生が一番多い時間の電車は到着も出発も遅れ。
その結果。早い方の電車が遅い方の電車の時間に出発、普段どちらかで帰る学生たちは一度にみんなそれで帰ったのだろう。
だからこそ普段よりかなり空いている遅い方の電車の車内だ。
そしてそんな電車のボックスシートにどうしてだか
さっきの今でなくても遠慮したく、特に今は遠慮したい状況に僕はある。
やっぱり彼女の帰りが気になるし心配だしで、少し大きめのタオルを買ってプレゼントしたりしていたら、帰りがすっかり遅くなってしまった。
しかも結ちゃんへの対応は帰ってからLINEでなんて話しただけで終わっており、何の進展もないままで再び結ちゃんに遭遇するなんて。
僕は彼女にプレゼントなんて彼氏らしいことをして、予想以上に喜んでくれた彼女の反応に浮かれていたからこうなったのだろうか?
調子に乗っていたバチが当たったのでしょうか……。
「ごめんなさい」
「……どうして謝るの?」
「だって、怒ってるでしょ?」
「今まで何をしていたのかとは思いますが、別に怒ってはいませんよ」
結ちゃんから怒っていないと言われても、僕はそれをそのまま受け取ることはできない。
怒っているなら納得できるが、怒っていないは納得できない。
見た感じ結ちゃんに変化はない(いつも通りの無表情だ)が、「私は先ほど何と言いましたか?」なんてわざわざ言うんだ。何もないわけがない。
僕が油断したところで怒りが爆発するのかもしれないし……。
「司、別に他の席にいってもいいのですよ」
「いや、彼女が会話を切り上げてまで気を使ってくれたんだ。僕はこのままでいいよ」
黒川さんと別れてホームに出て電車に乗り込み、どうせなら降りるのにいい位置である前の車両に座ろうと移動していったら知り合いと目が合い、挨拶くらいしようと近寄ったら彼女の前には結ちゃんが座ってた。
彼女からしたら普段から挨拶程度の自分というより、結ちゃんに話しかけようとしたと思うだろう。
だから話を途中で切り上げて、僕に結ちゃんの前を譲ってくれたのだ。
僕に気を使わずもっとお菓子の話をしていてくれてよかったのに……。
「……そう。なら私が他に、」
「──待って、まだ時間があるんだ。さっきの発言の真意を聞きたい!」
立ち上がった結ちゃんの手を思わず掴んでしまった。
でも、向かい合って座る必要はまったくないけど、僕一人では向かい合って座るなんてことにそもそもなってないんだ。
意図せずできたこの状況を活かさない手はない。
今回は苦手だからと逃げてばかりでは何も解決しないし、さっきの生徒会室での僕は黒川さんに言われたように
一度、ちゃんと話してみる必要がある。
「真意というのは男女交際の禁止と言ったこと?」
「うん、何もそこまでしなくても。もうあんなことしないよ」
姫川さんとも、
知らないうちに、気づかないうちにできていた思いの塊は話をして、ぶつけ合って砕けたはずだから。
もうあんなことにはならない。
結ちゃんだって話せばそれをわかってくれるはず。
「司、少し勘違いがあるようなので言いますが、私は貴方たちにだけ話を聞いたわけではありません。夏休み中も、その前にも、男女交際で問題となる話は他にもあった。それを踏まえての男女交際の禁止と私は言ったんです」
「えっ、僕たちだけじゃない?」
「そうです。それに提言するとしか言ってません」
「それが何よりの問題なんじゃないか……。結ちゃんの発言じゃなかったら僕はここまで気にしない。でも、結ちゃんが言うなら提言じゃすまないでしょ」
「なるほど、少し見くびっていたようです。私は有言は実行しますからね。掲げた公約は全て達成します」
結ちゃんは掲げた公約を真面目に達成している。というか、すでに全部達成されている。
そんな結ちゃんが表立って言うってことは、そうなるということに変わりない……。
「じゃあ、どうすれば提言をやめてくれるの?」
「……どう? どうもこうもう私は私がそう思うからするんです。やめるなんて考えはありません」
やっぱり融通が効かない……。
黒川さんの猶予という見立てもハズレだ。
そしてこれでは……って引き下がったらダメだ。
「じゃあさ、結ちゃんの
「司、中々に面白いことを言いますね」
最近はとんと見なかった結ちゃんの笑み。
黒川さんや姫川さんの笑みを邪悪と表現するなら、結ちゃんのは真逆なんだろうけど厄介さはその比ではないから大差ない。でも、これは。
「わかりました。もし私の気が変わったなら提言はやめて、これまで通りの個人への注意としましょう」
「気が変わるって、具体的には?」
「さぁ、それは自分で考えなさい。これは私と司との勝負です。馴れ合いは不用。期限はやはり総会までとしましょう」
座り直した結ちゃんはそれから何も話しかけてこなかったが、僕を見ないその横顔は少しだけ楽しそうに見えた。
もちろん僕の勘違いかもしれないし、そうだったとして理解し難いがそう見えた。
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