第27話 花火大会 下
どれだけ今日までのことを思い返してみても、
わかったのは自分は満たされていたんだということだけ。
僕が彼女と過ごした日々に勝るものがないと思うのなら、想いが届かなかった
それでも高木くんは「諦められないんだ」と言った。なら、せめて高木くんの役に立つのが正解だろう。
高木くんが望むように今日が上手く過ぎればいいんだ……。
「──今後もさっきみたいなことがあるかもしれないし、連絡先も知らないっていうのは不便だと思うんだ。いい機会だしみんなで交換しておかない?」
「そうだな、
僕には
何より僕は高木くんに応援していると言ったんだ。本心で言ったのだから自分にできることをするべきだ。
そして僕はこれまでよかれと思ってきたことを、間違っていないと思ってきたことを改めよう。
よかれと思ってきたことは迷惑で、間違っていないと思ってきたことは間違いだったのだと認めよう。
この先も自分の振る舞いで誰かに不快な思いをさせるくらいなら、自分で自分の勘違いを正してやり直そう……。
「あーしはいいよ。って
「私も構わないわよ。連絡先を交換するくらい。ただ、」
──よかった、帰りのタクシーを待つ間に上手く切り出せたぞ。
これで問題なく連絡先を交換できる。
交換したところで僕にクラス以外で高木くんとの接点はないんだから、連絡先を使う機会もないだろうけど……。
新学期からは高木くんと距離を取るのはもちろん、新学期からは単なるクラスメイト……いや、この考えが間違っているのか。
自分と高木くんが対等でないということは、単なるクラスメイトでもないということだ。
上からは単なるクラスメイトと言えても、下からは単なるクラスメイトとは言えないんだ。
……あぁ、そうか。これがきっとそうなんだ。
これがスクールカーストというもので、高木くんたちに一歩引いてしまう人たちが感じることなんだ。
下位だと言われる人たちが自身の性格よりも主張よりも優先してしまうものか。
なんて、なんて、馬鹿らしいんだろう……。
「私の質問に答えたらよ。貴方、彼に何を言ったの?」
「なんのことだ。俺は何も、」
「──しらばっくれるな! 私たちが一条くんを害するわけがないんだから自動的に貴方しかいないじゃない! 今のだって彼らしくない。一条くんはきっと思いついた時に言うわ。自然に言ったと思うのは言わせた貴方だけよ。おおかた彼を使って連絡先を聞こうとしたのでしょうけど、どこまで他人に頼り他人を使うの。自分にそんな権利があるとどうしたら思えるの、言ってみなさい」
周囲にはまだ沢山の人の目があるにも関わらず、姫川さんは突然声を張り上げ、周囲のことなどお構いなしに高木くんに詰め寄る。
こんなに姫川さんが感情的になるなんて。それに全部気づいてる。どうしてだ……。
「──姫川、違う。俺はただ、」
「何、早く言いなさいよ。私が全部違うと否定してあげるから」
「美咲ちゃん、急にどうしたの!? ちょっと一条も手伝って!」
「貴女も自分の失敗を認めなさい。この男に一条くんの友達なんて無理よ」
壁まで高木くんを追い詰めた姫川さんをすぐに止めに入った黒川さんは、不意に自分に向けられた言葉に反応したのか、僕から姫川さんの方に視線を戻す。
表情は見えないけど黒川さんはどうやら図星を突かれたようだ。
けど、高木くんを友達ってどういうことだ……。
「これを一条くんと仲良くさせられたらと貴女は考えたのでしょう。だから今日連れてきた。でもね、それは無理よ。この男にできるのは勘違いから生まれるもので彼を傷つけることだけよ」
「……確かに高木っちは期待はずれだった。あーしのせいで離れていっちゃった友達も、高木っちがいれば元に戻るか、高木っち周りで代わりができると思ったのに」
「当たり前よ。誰に対しても自分が上だと勘違いして生きてる人間に、誰にでも区別なく接する彼が合うわけないじゃない。見えているものが違うのだから相容れないわ。私たちみたいにね」
「一条、そういうわけだったの。本当にごめん。今日は失敗だった……」
黒川さんはずっと僕から友人たちが離れていったのを自分のせいだと気にしていて、高木くんを僕の友達にしようとしていたのか。
ダブルデートの裏にはそんな目的もあったんだ。
だけど黒川さんのせいだと僕は別に思っていないし、少し距離が開いただけで友達であることも変わらないと思っている……のに?
「あぁ、僕は思っているばかりで口に出して言ってなかったのか。言葉にして言わないと伝わならないこともあるんだ」
「一条?」「一条くん?」
「黒川さん、ありがとう。でも、僕は友人たちが離れていったなんて思ってないんだ。夏休みが終わったら全員と話をして、和解とは違うけど元に戻すつもりだった。一ヶ月も経てば話くらいはできる。自分は何をしてるんだろうってみんな馬鹿らしくなってるはずだから」
そして言葉にしなければ伝わないというのなら、これは高木くんに対しても同じだ。
僕は友達だと思っていただけで、友達だと言ったわけでもない。本当に勝手に思っていただけで、勝手に応援していただけだ。
「姫川さんもありがとう。僕はたぶん大事なことに気づけた。僕は他人のことばかり見ていて自分のことを見てなかったんだ。高木くんと友達になりたい。これが僕の本音だから」
僕は高木くんのことを知った気になっていただけだ。
友達になろうと言うのに本音が足りてなかった。
気づかないうちにどこかで自分より頼もしい彼に遠慮してた。今の今まで高木くんを上だと思っていた。
たぶん僕をよく知る人に言わせたら僕らしくなかったんだ。
「高木くん。今日はキミのせいで最悪の気分だ。僕は黒川さんと花火を見るのを楽しみだっただけになおさらにだ。あと、姫川さんに連絡先を聞きたいなら自分で言いなよ。
「一条。お前……」
「高木くんの本音はさっき聞いたからいいよ言わなくて。それでさ、高木くんが自分が勝ってると主張する意味もわからない。同じ年齢で同じ学年で底辺もなにもないよ。何言ってるのさ。キミの語る優劣なんてキミの主観であって、僕が認める理由はない」
「ふざけんな! 俺がどれだけの苦労をしていると思う。お前みたいに枠から外れた奴に何がわかるんだ。人間関係において上下がつくのは当然なんだよ。たとえ俺がつけなくてもつくんだ!」
今日まで喧嘩なんてものからは縁遠く生きてきたけど、掴まれた胸ぐらを掴み返すことくらいは僕にもできる。
建前も、本音も、言ってみないとわからない。ぶつけてみないと何もわかり合えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます