第23話 好きを探す ⑦
僕に彼女を連れて部活に参加するなんてことがあるとは夢にも思ったことはなく。
まさかヤバい男たちしかいない(部活中に限る)、いわば戦場に女の子がいる光景を見るとも思わなかった(女の子ではないため顧問は除く)。
部活動が増え一度で済んでいた夏休み前の部活動の総会は、運動部と文化部系とに分けて行われ、どちらにも参加するのは生徒会のみ。
つまり生徒会長が何故だか現れる可能性はなく、遭遇する可能性もこちらから近づくことがなければないと僕は安心できた。
「えーーっ、全部持ち込みなのこれ!? 部費で買い漁っているのかと思った」
「新設の部だし部費はほとんどないって言ってたよ。あったら遠征して大会とか出てるだろうし。ほぼほぼ持ち込みなんだ」
「調理部の材料費が自前みたいなもんか」
黒川さんも部長がいなければ機嫌が悪いということもなく、むしろ興味ありそうに部室を見て回ったりしていたし。
明らかに最初は驚いていた部員たちとも、黒川さんの持ち前のスキルで友好的に過ごすことができた。
「いつも何やってんの? へー、これかー。動画で見たことある。ちょっとみんなでやって見せてよ」
「いや、今はぷよぷよが活動のメインだから! 部長に聞かないと!」
「今いないじゃん。ここはゲームやる部活でやるのがゲームなんだから、大丈夫だって」
そう言ったときはヒヤヒヤしたのだが、部長がいなければヤバい男たちのヤバさも半減という状況であり。
いいところを見せようと張り切り出して、急にスイッチが入った部員たちから逃れることもわりかし簡単だった。
「……なんか怖いね。いつもこんななの?」
「部長がいる時はもっと酷いよ。連携が大事なゲームだから常に声は聞こえているし、ガチな人たちだからなおさらかな。人数は足りてるから僕たちはぷよぷよしよ」
「放っておいていいの、あれ」
「いいよ、勝手に盛り上がってるだけだし。飽きることはないから離れていれば大丈夫だよ」
同じeスポーツ部だけど僕だけは普段からメインのゲームには関係がなく(人数的にも興味的にも)。
人数が足りない場合でもない限りは普段から別なことをしているから気にもならず、むしろ黒川さんがいるのだから彼女に構うべきだろうと判断した。
「で、これからなにやんの?」
「夏休み中にモールでぷよぷよの大会があるんだ。それに部活で出るからいま練習中みたいで、当日は一人用のモードなんだけど普通は対戦できるから対戦をって、黒川さんやったことある?」
「見たことあるけどやったことない。教えて」
部員たちもだったから意外とみんななのか、黒川さんが女の子だからなのか一から教えることになり。
当然だがそんな黒川さんに負けるわけもなく、僕はなるべく詰めるだけ積むようにして対戦した。しかし、
「だーーっ、意味わんない! どうすればいいのこれ!」
「四つで消えるんだから三つは繋げるようにして置いて、違う色を挟んだり横に立てたりして、消したところから繋がるようにする、」
「そんなの急にできるか! もっと手を抜いてよ!」
「そうしたいけど手の抜きようがあまりないゲームなんだよ。僕だってかなり考えながらやってるから、これ以上は無理だよ」
四つで消えるとしかわかっていない黒川さんは四つで消す動きが多く、消せないやつが溜まっていき自滅というパターンが多かった。
これでは三十分もすると飽きて違うゲームをやろうと言い始め、あとはただゲームをやって過ごしただけだった……。
「ただいま。いやー、揉めて長引いたわ」
「部長、お疲れ様でした」
「せっかく彼女さんきてくれたのに、留守にしてすまんかったな」
「私たちもう帰るんでお構いなく。帰るよ」
十七時過ぎに部長は戻ってきて、ちょうどその時に黒川さんは次のゲームを探しているところだったのだが手を止め、バッグを持ったかと思ったらそのまま帰ると言い出した。
黒川さんは部長に対してはすごくドライで、「これからはいつでも遊びにきてくれていいからな」と去り際に言われてもお辞儀するだけだった。
このあと夏休み中も僕が部活に出る時は黒川さんも一緒にくることになるのだが、あまり部長との関係は改善していない。
部長は黒川さんがいると「女の子がいると華がある」と言い、部員たちも黒川さんがくると喜んでいたが(顧問に女の子判定はないためだと思われる)。
僕は何故だかもやっとする時があり、これが嫉妬と言うのだと理解した。
◇◇◇
「今日もどっか寄ろうかと思ったけど今からだと遅くなっちゃうか。どうする?」
「明日休みだし構わないよ。遅くなるって言ってきたし」
「じゃあ今日はマックにするか」
「それならバスは逆回りの方が早く着くからバス停逆だよ」
バス停に向かい歩いていると自然とグラウンドが目に入り、ほぼ毎日活動している陸上部が休憩しているらしいところが見えた。
僕はその中に
「ちょっと待ってて、高木くんに言うことあったんだ」
「懲りないね。まあ、いってらー。高木っちか……」
黒川さんを待たせているというのもあって小走りにグラウンドに向かうと、高木くんもこちらに気づいてくれ一人で近づいてきてくれた。
「
「高木くんにこないだの報告をしようと思って」
「あぁ、黒川の件か。教室で見るからそうかと思ったけど、無事に付き合うことになったんだな」
「うん、今も一緒に帰るところ」
「そうか。おめでとう。あと、頑張れ」
黒川さんをよく知っている高木くんは、これまでの黒川さんから判断して「頑張れ」と僕に言うのだろう。
確かに、からかい的な意味では頑張らないといけないのだが、もう高木くんの言うような「頑張れ」にはあまり意味がない。
僕たちは好きを探すことにしたからだ。
「……一条、それを聞いたからというわけじゃないんだが俺からも一つ言うことがある。夏休みから
「復帰って、姫川さんて陸上部だったっけ?」
「今は違う。姫川はボランティア部だからな。だけど陸上を諦めたわけじゃなかった。陸上部に入るというのはそういうことだろう? 俺はその前に姫川に告白しようと考えてる」
「なんでそれを僕に?」
「迷惑をかけたからと……いや、それだけだ。別に一条にだけ言ったわけではないし、気にしてくれと言うわけでもない。ただ言っただけだ」
このとき僕は「応援してるから」と言い、高木くんは「ありがとう」と返した。
僕はこの時に「姫川さんには彼氏がいる」のだと、「実は自分も姫川さんに告白しようとした」のだと正直に言うべきだっただろう……。
姫川さんのとてもプライベートなことと、高木くんの真剣さを比べて前者を取り。
言う必要はないだろうと自分のことを棚に上げ、結果はわからないと自分に言い聞かせて、僕は知らないふりをした。
だけどきっと高木くんに「彼氏がいるからやめた方がいい」と、「だから素直には応援できない」と嘘でも言うべきだったんだ。
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