第24話 好きを探す ⑧
帰りに寄ったファストフード店で、どうしても気になってしまった
この時は二人が友達だと思っていたからだけど、実際に黒川さんは姫川さんのことを知っていて詳しい話を聞くことができた。
これまで学校は違っていても陸上という繋がりと、斜め向かいという家の近さ。
そして友達でなかろうと目立つお互いのことだから、黒川さんはよく知っていたのだろう。
それに黒川さんは「かっこよかたから」と陸上部だった頃の姫川さんのことを語った。
かっこいいという言葉は姫川さんに似合うから、
僕は「姫川さんは陸上部だったの?」というところから話を始め、黒川さんは「……仕方ないな」と話してくれた。
姫川さんは確かに中学生の頃は陸上部だったが、高校では進学に有利なボランティア部に入っており、陸上なんてまったく会話にも出さずにいると聞き。
その理由を体育の授業を全て見学していたから怪我だろうと黒川さんは推測していたが、体育の授業は男女別だから僕は姫川さんの見学などまったく初耳で、姫川さんが今は陸上部でない訳と一般での進学だったのだと初めて知った。
黒川さんはそれを踏まえての推測として、高木くんに推薦があったのなら姫川さんにも推薦はあっただろうと言い。
しかし怪我で推薦という話はなくなり、一般で受験したのではないかと黒川さんはこのとき言っていた。
姫川さんの別れた彼氏というのが家庭教師だと本人が言っていたから、この黒川さんの推察はあながち間違っていないだろう……。
「──それでさ、高木くんに姫川さんに彼氏がいるって言った方がよかったのかな? プライベートなことだし公言していないってことは、姫川さんは知られたくないんだよね」
「言わなくて正解だと思う。なんで
「……あんまり」
「だよね。大学生の彼氏超イケメンだったし、美咲ちゃんを口説き落とすんだから相当だよ。それに高木っちは彼氏がいようと美咲ちゃんがいいって言うだろうし、これはなるようにしかならないってやつだよ。一条が気にする話でもないと思う」
高木くんは僕と違い彼氏がいるからと告白するのをやめないだろうと言われ、なるようになるしかないとまで言われてはどうすることもできなかった。
姫川さんに僕が言えることなどなく、高木くんにも言えることがないとなれば、もうできることはなかったんだ……。
「──ところで彼女と二人で帰っているというのに他の女の話ばかりするのはどういうつもりなんだろうか? 返答によっては彼女として適切な対応をするしかないのだけど!」
「ご、ごめんなさい。彼氏としての配慮が足りませんでした」
黒川さんは仕方なく話してくれはしたが、面白くはないらしく話し終わると不機嫌になったし。
完全に姫川さんのことしか見えてなかった僕には、彼女である黒川さんに素直に謝罪することしかできなかった。
「今回に限り見逃すけど次はないから。ポイント減るし物理的に制裁するからね」
「はい、気をつけます……」
一回は許してくれるらしい黒川さんは初回に限り注意のみで許してくれた。
この日は何も知らなかった姫川さんに対する知識が主に増え、土日は両日共に黒川さんと長時間LINEして過ごして黒川さんへの理解が深まったりした。
◇◇◇
「──どうして終業式やったのに終わりじゃないの?」
「……午前中の二時間も授業が潰れたとは思えないの?」
月曜日。夏休みの部活動の話や長い校長先生の話を含む終業式が一時間ほどで終わり、クラスに戻ってからもホームルームでの夏休みの話と任意補習の話など。
午前の授業時間を使ってのそれらを終えての昼休み。
いつもの場所でお昼を食べていると、何故午後も授業があるのかと黒川さんは言った。
僕にとっては小学校の時にしか終業式だけの日という記憶はなく、中学校までそうだった黒川さんにしたら変なことなのかもしれない。
というか、これは結局は黒川さんの夏休みは夏休みという理論に基づいていると思われる。
「潰れた分午後にやるよね。プラスマイナスゼロだし明日からも授業あるんだよ。どう考えてもマイナスだよ」
「授業をやることがマイナスにカウントされてしまうとどうしようもない。なら、明日からは毎日が半日授業だと思えないの? これならプラスに考えられるんじゃ、」
「世間は夏休みじゃん。なのに休みの日に授業あるってやっぱりマイナスじゃん。土日が休みなのは普通なことだし。夏休みは夏休みなんだよ」
黒川さんの夏休みは夏休みの理論は強固で、最後には必ずそこに着き、黒川さんの意見は絶対に変わらないだろうなと思った。
学年が上がるにつれ授業が多いことのありがたさがわかってくるのかもしれないけど、その時はその時で夏休みは夏休みの理論はでてくる気がする。
来年は受験勉強で夏休みどころじゃないかもしれないとか、高校最後の夏休みなんだからとかだ。 ……ありそう。
「黒川さん。授業終わってからならいくらでも付き合うから、それでどうにかなりませんか? 遊びにいくのに待ち合わせる時間も学校だから省略できるし、遊びにいくにしてもここからなら動きやすいかと」
「……天才。駅前に午前中に待ち合わせても、お昼食べてから動いたら大して変わんないや。つまり学校の日は遊び放題だ」
「いや、次の日も授業あるから遊び放題ではないんだけど……。まあ、代わりに夏休みの宿題あるわけでもないからね。授業で出されるのは別だけどさ。家でだらけるよりも授業あった方が勉強するだろうし、毎日勉強してると思えば、」
「──そうだよそうだよ。夏休みじゃないんだから夏休みの宿題もない! 出された宿題なんて写させてもらえばいいんだし。学校なのも意外とアリかも」
任意補習の期間が終われば休みの分の課題がでるとか、遊んでばかりいると休み明けの小テストが大変だとか、夏休みは部活もあるよとか。
この瞬間は楽観視していても、少ししたら気づくだろうから言わなかった。
そして最初は「意外とアリ」と言っていた黒川さんは、連日の授業に加えて放課後毎日遊び歩けば日が経つにつれ疲れていき、やっぱり「夏休みは夏休み」と言うのだった。
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