第21話 好きを探す ⑤
ドーナツ屋での思い出しては悶絶する愚行の翌日。夏休み前の通常授業の最後の日。
僕はいつも通りに起床して、いつも通りに学校にいくつもりでいたのだが、黒川さんから連絡があって「一緒に学校いこう」と言われたのだ。
LINEではなく通話なのにも驚いたし、家族の目の前で驚いたもんだから家族に不審がられるし、急にいつもより早い電車に乗るのも大変だった。
「
「そうなのか? 部活の朝練……ではないか。なんだ?」
この瞬間まで気づきもしなかったことだが、彼女ができたと親に言う必要はあるのか。
あった場合にどういうふうに伝えるべきなのか。
どんなタイミングで言うものなのか。
避けては通れないのか、通れるのか。
まったく予期していなかったことに気づいた僕は、この場を「学校でやることがあるんだ」と誤魔化したのが原因なのか、親に彼女ができたと言うタイミングを未だに見つけられないでいる……。
「いってきます。部活あるし少し遅くなるから!」
訝しむ両親から逃げるように僕は支度を整えて家を飛び出し、通勤通学で混雑するいつもの時間の電車ではなく早い方の電車に乗り、僕より遠くから通学してきている黒川さんと駅前で合流した。
「おはようございます。黒川さん朝早いんだね」
「おはようございます。このあとになると始業ギリギリになるんだよ」
黒川さんは毎日この時間なら僕なんかより早く学校に着いているだろうし。
毎日このあとのバスに乗る僕とは、こうして待ち合わせをしない限りは遭遇する機会もなかったのだと知った。
「──そうだ。彼女ができたというのを親に話すべきなのかな? 普通はどうするものなんだろう」
待ち合わせした場所からバスターミナルに向かい、バスを待つ間に気づいた疑問について聞いてみた。
僕の一存で決めてもいいのかも不明だし、黒川さんはどうするのかも不明だし、普通はどうなのかも不明だし。
「どうって、彼女ができたことが言えないようなことなら言わなくていいし。言わなきゃいけないと思うなら言う。判断は
「……協力って?」
「ご両親に電話でご挨拶でもいいし、自宅訪問でもいいし。あっ、ラブラブさをアピールするために写メ撮って送る?」
最後のを聞いたら前二つにも嫌な予感を感じるしかなく(間違いではない)、黒川さんは頼りにはなるが頼れないと僕は思った(間違いではない)。
そして自分に親がいるということは、向こうにも親がいるんだと当たり前のことに気づき。
自分は言わないにしても(言うつもりではある)、彼女の方はそうはいかないのではないかとバスに乗りながら思った。
「黒川さんの親は何してる人?」
「うーん、よく知らないや。家で仕事のことは話さないし。サラリーマンとサラウーマン?」
「そっか。なら、家族構成は?」
「パパとママだけだよ。一人っ子だし。一条は?」
「うちは歳が離れてるけど弟がいる」
黒川さんの家族構成とご両親の仕事など、付き合う以上は必要だろう情報の不足感は否めず。
知り合ったばかりの彼女との会話の必要性を痛感し、僕は次からもこの時間で登校しようと決めた。
互いを知るうえでコミュニケーションはやはり必須で、彼女ともなればその必須の度合いも跳ね上がり。
会話する時間などいくらあっても足りないのだから、時間を捻出するなら登下校は絶好のポイントであり。
コミュニケーションに問題なく使えるこの登下校の時間を有効に使おうと僕は考えたのだ。
しかし、こんなふうに二人の時間が増えることのプラスの面にばかり僕の目は向いていたんだ……。
「あーし、兄弟って羨ましいかも。共働きだし、帰ったら一人とか普通だから余計にかも」
「僕も弟が生まれるまではそうだったからわかるよ。そうか、黒川さんは一人娘なのか」
「あっ、こないだ家族で撮った写メあるよ。これがパパとママ」
黒川さんが一人娘だと聞いて、やはりお付き合いしているとすぐにでも報告しないといけないのではないかと思い。
黒川さんに見せられたパパとママ(主にパパ)によって、僕はその報告というのはかなり難しいものになるのではないかと感じた。だって、
「お、お父さんって外国の人?」
「アメリカ人だよ。お母さんが日本人」
「いかつい。マフィアみたいだ……。って、黒川さんってハーフなの!?」
マフィアと見た目から判断したくなるパパ。
そのパパと一緒に映る黒川さんは溺愛されているのがわかり、そんな一人娘と交際している男をどう思うのかと考えたら気が気でなく。
父親が外国の人だということは黒川さんの見た目は彼女の生まれ持ったものが大きく、別に髪の毛も染めているとかではないんだと知った。
まったく知らなかったことに続けて驚いていると、「なんだと思ったの」と言われてその通りだった……。
「──これはギャルっていうの。ファッションなの! 知らない、のか。どれだけ女の子に興味ないんだよ……」
「これから勉強していきます……。でもなんでギャル?なの。余計に目立つだけなんじゃない?」
「なめられないようにだよ。小さいってだけでもからかわれるのに、金髪で普通にしてたんじゃからかわれるの! 変えられないところは変えられないんだから、変えれるところを変えたりできることをしたんだよ」
黒川さんの言ったことは僕には理解できないことではあった。
だけど、身近に同じようなことを言っていた人がいれば黒川さんも同じなんだろうとは理解できた。
友人Cが同じようなことを言い、同じようなことをして、同じような位置にいるからだろう。
今となっては友人Cはあれが彼であり、金髪でもギャルでもない黒川さんは想像できないからこれが彼女なんだと僕は納得した。
「黒川さんに似合ってるしいいと思うよ」
「そ、そう。ありがと……」
こんなことを話しているうちに学校の下にあるバス停に到着し、毎日同じバスに乗っているはずが時間がやけに短く感じた。
以降、たまに一人で乗るバスの時間が長く感じるようになったから、錯覚にしても長いより短い方がいいし。
黒川さんと一緒なら長く感じた方がいいのにと矛盾してしまっていたりする。
「一条、おはようさん」
「部長、おはようございます。同じバスだったんですか?」
「毎日同じバスや。なぁ」
バスを降りた僕たちに後ろから声をかけてきたのは部長で。
部長は何故だかにやにやしており、話しかけた僕にではなく黒川さんに同意を求めた。
「……部長は黒川さんと知り合い?」
「毎日同じバスに乗るだけの間柄や。それを言うなら一条たちはなんなん? ずいぶんと楽しそうだったな」
「それは……」
親に言う判断は任せると言われたが、先輩や学校ではどうするのかを聞いておらず。
僕は黒川さんの方の様子を伺ったが、黒川さんはすごく嫌そうな顔をしていて、「そういえば昨日も部室に行こうとしたら止められたな……」と思い出した。
「実は彼女と昨日から付き合っています」
「へー、なんや彼女か! それはめでたいな」
「ありがとうございます?。いたっ!?」
僕は部長には言うという判断をし、彼女だと黒川さんを紹介したら背中を思いっきり叩かれ、「先にいってるから」と言い残して黒川さんは一人で学校にと向かっていってしまった……。
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