第17話 好きを探す

 同日の放課後。僕は部活に顔を出すことにした。

 期末試験前と、期末試験期間と、いろいろあった試験後と、しばらく部活にはいかずにいたから久しぶりに部室に顔を出したんだ。


 とはいえ、顔を出そうが出さなかろうが構わないように、夏休み中の活動もいつも通りだと思っていた。

 つまりは特に何もないだろうと僕は思っていたのだが、部室の近くからその音は聞こえていた。


 連鎖が続くと変化していく呪文が聞こえ、二つ聞こえていた呪文はあるところから一つのみ聞こえるようになり、最後は大量のお邪魔が降り注いだ音が聞こえて試合終了となった。


「……んっ?」


 僕の入っている部活はeスポーツ部。

 確かにゲームをやる部活ではあるのだが、メインとするのは三人チームによる陣取りゲームのはずで(みんな本気でやっている)。

 決してぷよぷよしているわけがないのだが、そんなぷよぷよは間をおかずに続いていておかしいと思った。


「──失礼します」

「おっ、一条いちじょうやないか。なんや久しぶりやな」

「部長。連絡もしなくてすいませんでした」

「テストの出来でも悪かったのかと心配したわ」


 部室に入るとテレビに繋がったゲーム機でぷよぷよは行われていて、喋りながらでも部長の画面にぷよぷよは淀みなく積まれていく。

 そして連鎖が始まり相手がはね返せないと見るや部長は、「抜けるから交代や」と見ていた部員と交代してしまう。

 当然部長の勝ちで「やった〜」と部長のキャラが喋った。


 二年生の部長はこの部を作った人であり、そのまま部長であり、そのまま部長と呼ばれている人だ。

 元は陸上部の特待生だったらしいが、怪我で陸上は難しくなり代わりに始めたのがこのeスポーツ部。


 一年前より熱がはるかに高くなっているeスポーツは今では単なる遊びとは言えなくなってきていて、誘われてほんの遊びのつもりで入ったのを僕は後悔していたりする……。


「──で、なんでぷよぷよ?」


「ああ、一条はおらんかったもんな。これや。新しくできた浜のとこのモールで夏休み中にぷよぷよのeスポーツ大会がある。活動記録いるしみんなで出よういうわけや。これ、日程な」


「へー、知らなかったです。当日参加もありってなると人多そうですね」


「だから大会のないメインは置いといて練習や。大会はタイムアタックで二分って時間制限あるけど、人数いるのに黙々とやるもんでもないやろ。ところで一条はできるか? こいつらダメダメでな……」


 僕の他には一年で五人部員がいて部長を合わせて七人がeスポーツ部なのだが、部長しかまともにプレイしたことがなく絶賛練習していたというわけだった。

 僕はというと家にあるものと同じようなルールだったし、部長以外の部員たちよりはマシなくらいだろう。


「前は時間があれば上まで組めましたよ。最近やってないですけど、彼らよりはマシかと」


「助かるわ。後なんでもいいんやけどソフトあったりするか? ウチにあった一本じゃ二人ずつしかできなくてな。大会のソフトをわざわざ買うのもなぁ」


「うーん……。帰ったら聞いてみます」


「頼むわ。ところで一条、アレはなんや?」


 部長が指差した先には音が外までかなり漏れていたからか、通りがかった人が立ち止まって部室内を見ている様子があった。

 問題はガラス窓に映る人物は二人いて、うち一人は身長が足らず金髪と目のみが見えているという人物であること。

 というか黒川くろかわさんだった……。


「!?」

「あの美人の子。噂の姫川ひめかわさんやろ」

「僕、ちょっといってきます!」


 そしてもう一人は姫川さんだった。

 二人共が実習棟には授業できたことはあるはずでも、僕は二人に部活の話なんてしていないから部室に現れたのには驚いた。

 二人揃ってというのも驚いたし、今思うと全てがおかしいことだった。


「──二人してどうしたの!?」

「ここじゃちょっと……」

「一条くん。例の場所に美咲みさきちゃんもお願い」


 人の目が増える放課後にいつもの場所にいくことはないのだが、ただごとではない姫川さんの様子に嫌とは言えず、僕は姫川さんも連れて実習棟の屋上へと向かった。


 黙ってついてくる二人の様子は何かあったと聞くまでもなく語っていて、屋上につくなり姫川さんが話を始めた。


「さっき聞いたばかりなのだけど、私に一条くんが告白したって噂になってるらしくて。そんな事実はないと否定したのだけど、そうしたら話が何かおかしな方に向いてしまっていて……」


「おかしな方って?」


「美咲ちゃん振られたとかだよ。そこから勝手に尾鰭に背鰭もついて、あんなヤツが告白したのかとか。住む世界が違うだろとか。席隣だから調子に乗ってるなとか。ゲームやってるだけの部活のくせにとか。まあ、いろいろだね。カースト下位の一条くんにヘイトが溜まって大変なことになるかもってこと」


「……大変なことって? あとカーストって何のカースト?」


 カーストという言葉の意味は知っていても自分が属するカーストに心当たりはないし、ヘイトが溜まるというのも意味はわかっても理解はできなかった。

 そんな僕に黒川さんと姫川さんは「「──えっ?」」と反応したが、この時までスクールカーストなんて存在すら知らなかったのだから仕方ない。


「美咲ちゃんとか高木たかぎっちとかクラスでも学年でも目立つ人が一軍。運動部とか普通の人たちが二軍。部活がオタク系とかなんか目立たない人とかが三軍ってやつ。知らない……んだね」


「……ねぇ、黒川さん。もしかしたらだけどスクールカーストなんて今まで、、、なかったんじゃない?」


「そ、そんなことある。ここ学校だよね?」


「ここは有名な進学校よ。一条くんたち中等部からここにいる人たちに、大声で話し爆笑するのが偉いなんて考えはきっとないわ。あのカースト命の連中と、あと貴女みたいなの以外にはね」


「おいおい、自分のことを棚に上げて言うね。一軍も一軍。もう上には誰もいないって言う美咲ちゃんよ。そんな一軍が気まぐれに隣の席の下位に構うからこうなった、、、、、んじゃなくて?」


「失礼ね、あんなのと一緒にしないでちょうだい。私にスクールカーストに興味なんてないわ。都合がいいから何も言わないだけよ。それに私は一条くんをすごいと思うもの」


 いつもと違う姫川さんを目撃して僕は驚愕し、いっさい笑わない黒川さんに恐怖し、二人の険悪さが増していくのを見ていることしかできなかった。

 不用意に触れれば危ないと感じたのだから仕方ない……。


「そもそもさぁ、美咲ちゃんが『私は彼氏がいます』って公言しないのが問題なんじゃないの? 言わないから次々と犠牲者がでてるんだよ。あと何人殺すの?」


「なっ、なんてこと言うのよ! 貴女こそ男をとっかえひっかえしてるからビッチなんて言われるのよ。慈善事業も大概にしなさいよ」


「あれは、いやらしいことばかりしようとするのが悪いんだよ。どいつもこいつも。あーし、見た目ほど軽くないから!」


「無理があると思うわ。貴女に振られた男たちが可哀想に思えるもの。特に最初の……ナントカくん。四月も真ん中で付き合ってゴールデンウィーク前に別れるって。それも未だにあんなに怯えて、彼に何があったのかしらね」


「同じクラスなのに名前も覚えられてない方が可哀想だと思うけど! 美咲ちゃんはそういうところ直した方がいいよ。だから、男を見る目がないって言うんだよ!」


 このあと二人が掴み合いになって、ようやく僕の体は動いて二人を止めることができた。

 僕はいろいろな気になるワードより何より、二人の本質を見た衝撃でいっぱいいっぱいだった……。

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