第18話 好きを探す ②
姫川さんに見たこと聞いたことは他言無用だと釘を刺され、黒川さんにも同様に釘を刺されたのも多分に関係あるだろう。
恐ろしくて元々そんな気はなかったのだが、絶対にそんな無茶なことをする気はなくなりました……。
そんな僕はもう部活をする気分でもなくなり、部室に一度戻り帰る旨を部長に短く伝え、険悪なままの二人と一緒に実習棟を後にした。
僕は何故だか険悪なままの二人と一緒に帰ることになったからだ。
「今日はいいとして明日からだね。
「言われなくてもわかってるわよ。任意補習もあるし、しばらく気をつけるわ。貴女こそやるからにはちゃんとしてよ」
会話は成立するのに互いに目すら合わさずに歩く二人に、何とか仲直りしてもらえないかと考えたのだが(二人が友達だと勘違いしていたので)。
いい案は浮かばないまま実習棟から校舎の端に到着し、このままで駅までいくのかと絶望感を感じていた僕の目にあるものが飛び込んできた。
「
それは地形的に段になっている校舎より下にあるグラウンドでは部活が行われているのに、何故だか校舎の前にいる高木くんたちだった。
高木くんは部活にすごく真剣だと思っていただけに意外で、僕はそれを無意識に口に出したのだろう。
「あーあー、あんなに子分を引き連れて。高木っちってなかなかの小物だよね。顔はいいのに残念だよね」
「その顔に全てを持っていかれてるからあんななんじゃないの? 私がいって話をつけてくるわ」
「それ、逆効果だから大人しくしてて。あと一条くんと一緒のところを見られるだけでアウトだからね。あーしがいって誤解だって説明して納得させてくるから、」
この時の僕に高木くんが姫川さんを好きだという認識はなく、左右の二人が話す内容もよくわからず、しかし女の子に「話をつけてくる」とか言われては黙ってもいられなくて。
要は姫川さんとの噂が誤解だとどうしてか高木くんたちに説明すればいいのだと、そう解釈した僕は二人の前に出て、まだこちらに気づいていない高木くんたちに近寄っていったんだ。
「二人とも今日は裏から帰ってって、一条くん!? キミは勝手に何をやってんの!?」
「馬鹿、大声出さないで。こっちきなさい!」
姫川さんが黒川さんを校舎の陰に引っ張り込んで隠れたことで、高木くんたちに二人のことを気づかれることなく、僕はまるで僕を待っているようだった高木くんのところにと到着した。
同じクラスの高木くんの友達たちと、僕が知らないから外部進学者の人たち数人が、明らかに険悪な雰囲気で距離を詰めてきた。
しかし、先ほどの黒川さんと姫川さんと比べたら何ということもなく。ぷよぷよしてない時の部室と比べてもどうということもなかった。
「一条、お前に少し話があるんだがいいか?」
「噂のことだよね。いいけどここじゃ迷惑だから」
「……いい度胸だ。ちょっとこい」
「いや、こんなに大人数だとどこいっても迷惑だから。高木くんなら高木くんだけにならない?」
「はっ? ……あぁ、そうだな」
高木くんはもちろん他も呆気にとられたという顔をしていて、一度全員が顔を見合わせたのち、僕の提案通りに高木くん一人だけになったようだったから、少し離れた木の陰まで移動するだけにした。
これをあとで黒川さんにはものすごく怒鳴られたが、姫川さんには逆にすごく褒められた。
「一条、姫川に告白したって本当か?」
「してないよ。それは誤解なんだ。姫川さんにも迷惑になるから、こういうことはやめてほしいんだけど」
「それはそう言うだろうけど、俺は本当のところを聞きたいんだ」
高木くんはすごく真剣な様子で、僕は姫川さんにラブレターを出そうとしたことを話そうかと一瞬考えたけど、それを言わなくても誤解だと証明する方法があると気づいた。
「ねぇ、もしかして高木くんは姫川さんが好きなの?」
だけど、その前に高木くんに聞きたいことができたから、僕はそっちを先に口に出した。
僕からするとここまでの流れから推理してたどり着いたことだったのだが(自分だけが気づいてしまったのだと思った)。
高木くんと姫川さんの周りでは周知のことで、わざわざ聞く人間がいるとは高木くんは思ってなかったようだった。
でも、好きとか嫌いとかが苦手な僕には口に出して言ってもらわなくてはわからないことで。
この確認は僕にはどうしても必要だったんだ。
「……そうだと言ったら」
「へー、いつから?」
「いつからって、中学の頃から。学校は違ったんだが陸上の大会とかでよく顔を合わせてな。競技に打ち込む姫川を見てるうちに……もういいだろう」
僕は好きとか嫌いとかは苦手だけど、本当かどうかはそれなりにわかるつもりだ(一部例外あり)。
高木くんが言った言葉には本当があって、その気持ちには偽りがないと感じたから、僕は高木くんに言ったのだろう。
「うん、僕にもわかったから十分だよ。ありがとう。そうなんだ、気がつかなかった」
「で、本当のところはどうなんだ。答えてくれ」
「高木くん実はね。僕は黒川さんと付き合いたいと思ってるんだ。明日告白する予定」
「…………何? だ、大丈夫なのか、それは。黒川って……。朝教室に黒川がいたのはそれか? 一条が廊下にいたのも」
根拠のない噂は事実で打ち消せる。
高木くんにも思いたることがあれば根拠のない噂より、当人が口にすることの方が信憑性があり、信憑性があるということは事実と変わらないということだ。
まして僕は告白の日程まで伝えており、これで根拠のない噂の方を信じることはないと思った。
今朝のこともいい方に解釈してくれてよかった。
「それで、その、姫川さんに告白したとか大々的に言われてしまうと、黒川さんに告白する手前なかなかに困るんだ」
「それはそうだな、悪い。しかしどうしてこんな噂が……」
「それだけどさ、最初の人が姫川さんと黒川さんを聞き
「言われてみれば名前も似てるんだよな、あの二人。一条、すまなかった。誤解も誤解。噂に踊らされたなんて恥だな……」
最もらしい理由をつければ(自分もやったやつ)、高木くんに限っては収拾がつき、姫川さんだけでなく高木くんも違うと言うことで噂は消えてなくなる。
発言力のある人の言葉はそれだけ大きくて、僕はスクールカーストというものは侮れないと知った。
「じゃあ、僕はこれで」
「待て、黒川に告白するって話の詳細を聞いてない。部活がないならちょっと付き合え。黒川に告白するなんてどっちに転んでも多方面に影響が出るんだ。聞いておいて放っておけるか」
「えっ、僕は明日の用意に時間がかかるから早く帰りたいんだ。今日は間違いなく徹夜になるんだけど!?」
「俺は黒川のことを知ってるぞ。同じ中学だし同じ部活だったからな。告白するなら話をして損はないと思うが?」
このあと高木くんたちと共に駅前にある飲食店にいき(強制的に連れていかれ)、黒川さんが陸上部だったのだと聞いたり、付き合うことになったら報告すると約束させられたり、帰ったらもう真っ暗だったりした。
そして、ただでさえ時間がかかることだったのにこの分の時間だけ徹夜も長くなり。
僕がこの日の寝たのは朝方で、酷使した腕の筋肉が死ぬかと思った……。
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