第8話 きっかけ ②
「──悪りぃ、オレも彼女できました!」
「「……」」
友人Aの宣言から再びの金曜日。
いつもの場所で、同じような時間に、同じような台詞。三度目ともなれば大した驚きもなかった。
僕たちの中で一番彼女がいそうな友人Cに彼女ができた。以上だ。
「幼馴染っていうのか……。ずっと好きだったんだけどよ。あいつら見てたら眺めてらんなくて。勢いで告白してたんだ」
「「……」」
「そしたらOKもらって、明日さっそく遊びに行くんだわ。来週からはノロケ話しかできなくなるかもしれないけど、またな!」
あとは前の二人に倣って、彼女がいない人間に気を使って、次から昼に姿を見せなくなるだけだ。
会えば普通に会話するしLINE等のやり取りもある。
彼女ができる前と後で変わらずに友達のままだが、彼女と友達との優先順位が違ってくるだけだ。
問題はただ取り残された僕たちの内心だ。
近しい友人たちが短い期間に次々と彼女ができて急速に遠ざかっていくという、異常事態についていけない僕たちだ……。
「ねぇ、彼女ってどうやったらできるのかな?」
ついに二人になってしまった昼食の席。ふとした瞬間に本音がぽろっと出た。
女の子と関係のある間柄でない時点で、もう何も思いつかなかったからだろう。
趣味が同じ。部活動で一緒。幼馴染と。
友人たちと同様の共通点のある仲がいい女の子がいない時点で、僕には何も思いつかなかったのだ。
「
「落ち着け友人D。それは現実逃避でしかないから!」
「もう二次元でいいではないか! ゲームならいくらでも彼女なんて作り放題。好感度は数字で把握できる。それなのに何故、リアルの女子と付き合わなければならないのか! あれはとても恐ろしい生き物なのですぞ!」
「前に何があったんだよ……」
聞くにしても相手を間違えているのはわかっているが、この場には友人Dしかおらず、つい口から出てしまったのだから仕方ない。
ゲームとかアニメの女の子にはめっぽう強い友人Dだが、聞きたいのはそんな話ではないのだ。
そしてこの状況でその沼に引きずり込もうとしないでほしい。ハマったら抜けられなくなる自信があるから……。
「全員強制の部活はヤバい男ばかり。趣味にしても男ばかり。幼馴染はそもそもいない。そんな自分が彼女を作るにはどうしたらいいのかと僕は言ったんだ。底無し沼に引きずり込もうとしないでくれ」
「それはもう告白して、OKを貰って、彼女を作るしかないのでは?」
「告白って誰にさ。好きな女の子なんていないぞ」
「……」
僕に好きな女の子なんていやしないのだ。
女の子に興味はあっても興味から先には進まない。
そんな奴に好きな女の子なんているわけがない。
特に女の子が苦手ではないし、トラウマがあるわけでもないが、こんな自分が友人たちのようになれるとも思えなかった……。
しかし同時に「好きな女の子無し。イコールダメ」でもないはずだとも思った。
それで諦めていては何も変わらないし、何も起きないとは理解していたからだろう。
「一条殿。ちなみにこれまで好きだった女の子は?」
「なるほど。現在好きな女の子がいないんだから過去形か。ちょっと待って。頑張って思い出すから」
「あっ、ダメなやつだコレ」
友人Dに問われ必死になって考えて、ようやく思いついたのは中学になるのと同時に引っ越す前の近所の女の子。
きっと幼馴染というんだろう女の子だ。
意識して思い出せばよく遊んだしよく話もした。仲もよかった。女の子と言われて僕が思い出すのはあの子のことだ。
彼女を特別に思ったことはないが「好き」だったのだとしたらあの子のことだと思う。
「前住んでたとこの近所の子かな。もう三年以上会ってないし、連絡先とかも何も知らないけど」
「一条殿は確か、東京から越してきたと記憶しておりますが?」
「そうだよ。父親が地方に飛ばされて家族揃って越してきたんだ。今は父親が地方で出世したから、自分から離れない限りはここから離れることはないと思う」
このあと友人Dは「転勤って言ってあげて!」と、幼なじみという彼女候補を自分から奪った、どう考えても地方に飛ばされただけの僕の父親をフォローしていた。
遊びにきたときに二人に面識はあるし、オタク感が似ているから同族意識でもあるのかもしれない。
ただ、こういうのをキモいと言うのだろうと僕は思った……。
◇◇◇
「──昨日、帰ってから考えたんだけどさ。告白しようと思うんだ」
翌日の昼休み。いつもの場所に友人Dと二人。
前日に友人Dが言っていたことを家でよく考えた結果を報告した。
やはり自分にはそれしかないと僕は行きついたのだ。
「それは誰に? 昨日、好きな女の子はいないと言ってなかった? はっ──、まさかの先生。確か一条殿の部活の顧問の先生は若い女性の方だったと記憶しております。あるいは購買のおばさまに!? ま、まさか、近くの幼稚園で園児に!?」
「なにその選択肢。どれも違うから。接点がある女性って括りなら、まずはクラスの女の子とかだろ。どうしてそんな選択肢になるんだよ」
「一条殿は同じ年代の女性には興味がないのかと。仮にそうなら下だとしたらヤバイので、上を多く言った次第であります。しかし、今の反応。よかった。一条殿がヤバイやつでなくて」
「すごい人聞きが悪いからな……」
友人Dと二人になってしまってからも、二人だけで昼食を共にしているというのは側から見ると(いや、見えはしないんだけど)アレだったろう。
しかし友人Dがいる限りはやめる選択肢もないし、やめた場合「自分のせいで……」と三人に思わせるかもしれないから続けた。
もちろん残された僕たちがやめようと決めれば三人のせいなのだが、進学校らしいハードな授業の息抜きになるこの時間は嫌いではなく、なくしたくないと思うからという理由もあった。
それに、友達は多い方だと思うがこんな話ができるのは友人AからDに限られるのだ。
ここが気兼ねなく過ごせる場所であり、友人AからDが気兼ねなく接することができる友達なのだ。
「──失礼しました。では改めて。誰に告白を?」
「好きじゃなければ告白してはいけないのか。否、違うはずだ。世の中には一目惚れとか、ナンパとかいう彼氏彼女のパターンも存在するのだから! 昨日いろいろ調べたから!」
「一条殿。ここ学校。そしてそれは学校ではまずないやつ。あと誰に?」
「誰にかか……。これを考えるのは大変だった。僕も誰でもいいわけではないし、相手がいてのことだから相手にも失礼になる。そこで、今現在自分と一番仲のいい女の子だと思われる、
姫川さんはクラスが同じでずっと隣の席の女の子。
最も自分が会話している女の子であり、告白した場合の成功の可能性が最も高い女の子だと僕は考えていた。
この瞬間までそう考えていたのだが、この発言を聞いた友人Dは「マジかこいつ」という顔をしていた……。
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