第7話 きっかけ
僕が彼女が欲しいと思ったのには、自分ではっきりそれを自覚する
その日、その瞬間まで、彼女が欲しいどころか女の子への興味も興味以上にはなかった僕が、目撃した光景がきっかけであり
「──実は彼女ができたんだ!」
始まりは昼休みに友人たちと昼食を食べていた時のことだ。男ばかりの集まりの中の一人。友人Aとしよう。
メガネをかけた草食系男子(最近知った)代表みたいなその友人Aが突然立ち上がり、そんなことを言い始めたことだった。
この日、思い返せば友人Aはどこか様子がおかしかった。おそらく言い出すタイミングをずっと伺っていたのだろう。
そして言い終わったあとは、「言ってやった!」みたいな顔をしていたのをよく覚えている。
「「「「……」」」」
突然の予期せぬ友人Aの発言に聞いていた全員が沈黙して、同時に全員の箸と手も停止した。
次に全員の視線が友人Aに集まるがこちらからは何も話しかけられず、友人Aからの次の言葉を待つことになる。
「だから、明日からは彼女とお昼を食べようと思う。みんなごめん!」
彼女ができた友人Aの言葉は今思い返してみればアリだとわかるが、この直後は「彼は急に何を言ってるんだ?」と僕。
友人Bは「ふむ。で、彼女とお昼とは?」と。
友人Cは「つーかよ。彼女ってマジなん?」と。
友人Dは「彼女とか妄想乙www」と言った。
僕たちのリアクションに特に反応をしなかった友人Aは、やはり今度も「言ってやった!」みたいな顔をしていた。
「じゃあ彼女が待ってるんで。もういくから!」
「「「「……」」」」
「あっ、しばらく放課後も遊べない。しばらくは放っておいてくれ! またなーー!」
「「「「……」」」」
昼食を自分一人だけ急いで食べて、言うだけ言って去っていく友人Aの向かう先に全員でひっそりとついていくと、草食系男子の女の子版みたいな子が友人Aを待っていた。
僕は変なテンションで女の子と合流した友人Aにも、相手の女の子にも特別どうこう思うことなく二人を見ていた。その時だ──
もう戻って昼食の続きを食べようと思った瞬間だった。
友人Aと二言三言と話して、くすりと笑った女の子に僕は目を奪われた。
何故だか急に相手の女の子が輝いて見えたんだ。
「……あの女の子って? すごく可愛いのかな」
「あん? 女の話なんて珍しいな。まあ、ヤツには悪いが特別可愛くはないだろ。普通だ普通。なんだ、あの地味なのがタイプか?」
「地味って、あんなにキラキラしてるのに?」
「キラキラってオマエ……。言ってて恥ずかしくないのかよ」
友人Cくらいしか僕の周りで普段から女の子がどうとか言う人間はおらず、その友人Cが言うのだから女の子が特別可愛いというわけではなかったのだろう。
だけど、それでは見えたものの説明がつかず僕は原因を知りたくなった。
よく見れば友人Aも普段とは違い少しばかり男らしく見えた(気がした)から。
「あれがいわゆる彼氏彼女というものか……」
「なるほど。その関係性がキラキラの原因だとしたら納得できる。単独では普通でも掛け合わせると相乗効果を生むというわけだね」
「相乗効果? よくはわからないが付き合ってる男女というのは輝いて見えるのではないか」
友人Bの言葉には真実を得た気がした。
恋だとか愛だとかが人を変えるというのは何かで読んだことはあっても、実際に自分の目で見て感じたのはとても大きくて、僕はこの瞬間に自分も彼女が欲しいと思ったんだ。
「彼氏彼女か……」
この日、僕は彼氏彼女というものを初めて見てきっかけを得た。
これが期末試験よりちょうど一ヶ月前の話になる。
このあと背後で立ったまま無の顔をしていた友人Dの肩を叩いて正気に戻し、黙々と昼食を食べて昼休みを終え、午後の授業を記憶なく過ごし、部活もすっぽかして帰路についた。
◇◇◇
「──本当にこないんだ」
翌日の昼休み。いつもの場所に現れない友人Aに、昨日の宣言は本当だったのだと理解した。
理解したからぽろっと言葉が出たのだろう。
残る友人たちも同じように友人Aが昨日まで座っていたところを見て、やはり僕と同じことを思っただろう。
「今日になるまで内心疑っていたが、これは本当だな」
「オレ、実は今日あの二人が一緒に登校してるのを見たぜ。昨日は普通とか言ったけどよ。女って変わるのな……」
「も、妄想じゃなかったのか!?」
友人Bはわかりやすく寂しげに、友人Cは軽く絶望感を出しながら、友人Dは「昨日、女の子いたろ!」とツッコミ待ちなのかと思わせる反応をした。
この日はこれだけで友人Aについての話題は終わったというか、誰も友人Aの彼氏彼女の事情に触れなかったという方が正しいだろう。
「──これは我々も行動を起こす必要があるのではないだろうか!」
「「「行動って?」」」
さらに翌日。今日も彼氏彼女の話題を全員が避ける中、意を決したように友人Bがこんなことを発言した。
硬派な見た目と中身の友人Bがこんなことを言い出すのは正直意外だった。
その原因はおそらくここにくる途中ですれ違った友人Aだったのだろう。
彼女と一緒にお昼に向かう友人Aを偶然目撃してしまったからだろう。
「決まっている。我々も彼女を作る必要があるのではということだ。見ただろう。あの異次元なのかと思わせる二人の周りの空気を!」
「アレな。彼氏と彼女って雰囲気な。本人たちがイチャイチャしてなくても、側からはそう見えてしまうやつな」
「……二次元ではダメか? 二次元なら嫁もいるぞ!」
女の子に対して二次元が基準の友人Dには、「彼女は無理そうだなぁ……」と全員が思った。
この日はこのあと友人Bの話を残りのメンバーで上手くかわし。金曜日だったから休みの土日が挟まり。月曜は雨でお昼を集まらずに各々済まし。
次に僕と残る友人たちがいつもの場所に揃ったのは火曜日だった。
「──皆に報告がある。彼女ができた。同じ部活の女子だ」
「「「……」」」
そして火曜日の昼休み。
再びの彼女ができましたの報告と、再びの動きの一時停止。先週の再来が起きた。
行動を起こすと言った友人Bの早すぎる行動に僕はついていけなかった。
いくらなんでも話が早すぎるだろと思った。
「しかし明日からもここで昼食を共にしよう!」
「いや、くんなよ。ヤツのように彼女と飯食えや!」
「羨ましいぞ、この軟派ヤロウ! 見た目だけ硬派マン!」
彼女ができる理屈もわからぬ僕と、友人Bを思っての発言だろう友人Cと、意外と現実にも興味はあるらしい友人Dだった。
僕も軟派野朗とは確かに思ったがあとで聞けば、友人Bとその彼女とは中等部から同じ部活の仲間であり仲も良かったのだ。
きっかけがあれば付き合うというところまで簡単に発展する間柄だったんだ。
友人Bにとっても友人Aがそのきっかけになっただけだ。
「短期間に二人いなくなったね……」
「「……」」
さらに翌日。逆に気を使ってだろう友人Bもこなくなり、昼休みに集まるのが三人になったのを見てつい口に出てしまった。
これには明るくムードメーカーな友人Cも押し黙り、二次元を愛する友人Dは無の顔だった。
「ご、ごめん……」
「き、気にすんな! 飯食おうぜ!」
この日、友人Cの様子はどこかおかしかった。
初っ端に空気を止めた僕が原因かとこの日は思ったが、それは違ったのだとこの週の金曜日に僕は知ることになる……。
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