無冠帝 ③

「じゃあ、そろそろやるとしようか」

「は~い」

 やろうとは言ったものの、今は日常的になっていて昔はそうでなかったもの。

それに加えて酒屋に関する何かいいものはないか… 

「とりあえず、幅を狭めたいからどんなお酒が良いか教えてくれる?」

 僕の問いに、たまきは少し考える素振りを見せる。

「写真映えするやつ!」

 また、難しいのですね…『映え』ってよく分からないんだよな…最近の若者はすごいね~

「そんなのあるかな…」

「天音さんは、すごく映える綺麗なお酒出してくれましたよ。お兄さんもそれくらいできますよね?」

 たまきからの挑発に思わず、むっとしてしまう。

「僕だって、できらぁ!」

店に僕の声が轟いた。


「あんな大口叩くんじゃなかった…」

 即堕ち二コマである。

 かれこれ、一時間くらい悩んでいるがまだ見つかっていない。

たまきは暇すぎるのか、店をぐるぐる回り出している。

 今回の「今は身近で、昔はそうでなかったもの」はいくらでも見つかる。

例えば、ワインはポルトガルの宣教師フランシスコ・デ・ザビエルが日本に最初にもたらしたと言われている。要は、戦国時代はワインなんて知られてさえなかったが、今では毎日のように飲んでいる人もいる。他にも、ビールは江戸時代に初めて渡ってきたから—————

と色々考えは浮かぶ。でも、それはどこかこじ付けのようで、それでいて彼女の言う

『映える』がどうしても思いつかないのだ。と言うか、そもそも課題の内容があいまい過ぎるのだ。もっと、具体的にしてくれたり、限定的にしてくれたりすればもっと楽なのに…………

「お兄さん、まだ~?」 

 耐えかねて、僕の顔を覗き込んでくる彼女。

暇なら一緒に考えてよ! なんてドタキャンした手前言えない…

 僕が答えないことが答えになったのか、たまきはまた店をぐるぐる回り始めた。

そして、そのうち適当にお酒を手に取って眺め始めた。

「割らないでよ~」

「子供じゃないんだから、そんな事しなーい」

 そんな彼女の姿を見て、ふと考えが浮かんでくる。

「たまき、映えそうな瓶適当に色々選んで!」

「え、なにいきなり?」

「『映え』が難しいから、たまきが選んでくれたお酒に、理由をこじ付けすることにした」

「うーん? それでいいのかなぁ~」

 人に任せっきりの君が言うことじゃないよね。

「そんなこと言っていたら、いつまでも終わらないよ」

「私はそれでもいいけど… 仕方ないね。分かった! 探す」


そうして、彼女が選んだ中から課題に適しそうなものを選ぶ。

彼女が選んだお酒の中には、インテリアとしても使えるお酒「花舞うリキュール」シリーずや赤と白で構成された日本の和を連想させる「今代司 錦鯉」と言うお酒など、結構な量を選んでくれた。これなら一つくらい使えるものがあるだろう。

 そして、一つの水色でスタイリッシュな見た目の瓶に目が行く。

これなら… 以前、この名前の由来が気になって天音に聞いたことがあった。

その話は課題にぴったりだ。結局天音の受け売りになるが…この際仕方ない。

「決めたよ。今回は『無冠帝』のことをまとめよう」


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