無冠帝 ②
店中に響き渡るくらいの大きなため息をついて、ぶすっとした表情のままたまきは一度家に帰っていった。祭りに行けないなら暇つぶしに一日中店にいる。と宣言していたから、その準備をしてくるのだろう。
それを僕はぼーっと待っている。昨日、天音が楽を出来るようにいろんな準備を進めてきた。例えば、商品の補充、棚や床の清掃、POPづくり等など。
そのせいで何もやることが無い! 近くでお祭りがあるせいか今日は誰も来ないし、いつぶりだろうか、こんなに暇を持て余しているのは…早くたまき来ないかな~
そんな願いが叶ったのか、たまきが急いでくれたのか、すぐに店に戻ってきた。
さっきまでのふわりから一転、しゅっとした動きやすいパンツとシャツ姿になっている。
あのふわりとした姿、なかなか可愛いいと思っていたから少し残念だ。
また、背には少し大きなリュックサックが背負われている。
「どうしたの? そんなに大荷物しょってさ」
彼女はドスっと床に荷物を置くと、いつものように断りなく僕のそばに腰かける。
「今度の授業で、発表会みたいなのがあるの。受験で忙しいのにさ、先生も意地悪だよね~」
毎日のように遊びに来ていて忙しいというから、ツッコミを入れたくなるが話が折れてしまうのでグッと堪える。
「どんな発表?」
「『今は当たり前だけど、昔はそうでなかったこと』を調べて、英語で発表するんだって。
はぁ、めんどくさい~」
ぐてーっと机に突っ伏して、全身でやる気がないことを示す。
「もしかして、それを僕が手伝うの?」
「オフコース!」
小学生のような片言の英語の返事が来る。
おい、受験生それで大丈夫か?
「分かったよ。何を調べるつもり?」
「この前、他の教科の発表でお酒のことをやったら、案外大人たちには好評で…今回も英語の先生が楽しみにしてるよなんて言っていたの。だから、お酒の事適当にやろうかな~」
「何それ? そんなのいつやったの?」
「ちょっと前。あれっ? お兄さんに聞いてまとめたんじゃなかったけなぁ~」
「僕は知らないよ」
「あっ! そっか、お兄さんいなかったから天音さんに教えて貰ったんだ~」
「へ、へぇ~」
たまきと天音が僕のいない所でそんなことしていたのなんてなぁ…
仲間外れにされたみたいで少し傷つく。
「あれっ? お兄さん暗くなってどうしたの?」
本当、僕は顔にすぐ出てしまう。嫌になるよ…
「な、何でもない」
「も・し・か・し・て、妬いちゃいました?」
「違うやい」
「ほら、妬いてる~」
「だから…」
「大丈夫ですよ。一番はお兄さんだからね」
「ありが…うん?」
一番って何の事?
僕がなんの一番なの? もしかして…
たまきの言葉の意図を探るために視線を送るが————
「な~んてね」
とはぐらかされてしまった。
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