七笑 ②
右京さんのように、気になったらなんでも聞いてみよう!
そう思い、レジで暇そうにペンをくるくる回している天音に問いかける。
「天音さん、これの話なんですが…」
先ほど物置で見つけた前掛けをそのまま持って来た。
それを広げると————
「ゴホ、ゴホ、おい店に埃持ち込むなよ」
中からものすごい量の埃が飛び出してきた。
大人しくそれを外で払い捨てて、もう一度問いかける。
「天音さん、これって誰の前掛けです?」
埃を掃うために四つ折りになっていた前掛けを開いてみた。
すると、あちらこちらに虫食いのような穴があり、使ってから洗っていないのか汚れもこびりついている。そして、中央には『七笑』と書かれている。
天音がしている大沢の前掛けとは違うようだし、誰のものなのだろうか?
天音に前掛けを開いて見せると、「おお!」っと驚き声を上げる。
「懐かしいもの引っ張り出してきたな。どこで見つけたんだ?」
「物置に掛けてありましたよ」
「なるほどな、物置なんて滅多に行かないし、長居しないから知らなかったよ」
「で、誰の何です?」
「親父のだよ」
僕はその一言に目を見開いてしまう。あれだけ探していたオヤジさんの痕跡をいつの間にか見つけていたのだから。でも、ここでまた他の疑問が湧いてくる。
「うちの前掛け、大沢って書いてあるやつですよね? それなのに、なんでこれは『七笑』って書いてあるんです?」
酒屋で『七笑』と言えば、信州木曽の懐かしい旨酒を造ると有名な酒蔵、『七笑酒造』の清酒とかが思いつくのだが…
「酒の名前が書かれた前掛けをいろんな酒蔵が出しているんだよ。それを、親父が集めていたんだ。まぁ、途中で飽きて友人だか知り合いに他は全部あげていたはずだが… その時、それだけ行方知らずだったんだよ」
「へぇ~」
「話はそれで終わりか?」
おっと、オヤジさんの話題で危うく本題を忘れるところだった。
「ちょっとした疑問ですけど、なんで酒屋の店員は前掛けをするんです?」
僕の問いに、天音は呆れたような表情を浮かべる。
「なんだいきなり? 子供みたいになぜなぜ期でも始まったのか?」
「いや、細かいことが気になるのが僕の悪い癖なんですよ」
と軽くボケてみたら———
「フッン」と鼻で笑われてしまった。
ちょっとくらい乗ってくれてもいいんじゃないかなぁ~
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