こどもののみもの ④
母親が店を出て、ゆうき君と二人の時間が訪れる。
この子と一緒にいられる時間はもうほとんどない。だから、その貴重な時間を大事にしていきたいと思う。なら、残り時間で何をすべきだろうか? 出来たら酒屋らしい思い出が出来たらいいなと思うのだが…
「ゆうき君、お腹空いている?」
「うん!」
考える時間を稼ぐためにも、僕の非常食の小さなチョコレートを取りに行く。
その途中で————
「あっ! これならゆうき君でも楽しめるかも」
店の隅にひっそりと置かれているソフトドリンクコーナーに良いものを見つけた。
黄色のラベルの付いた細い茶瓶を手に取り、それをゆうき君へと持っていく。
「ゆうき君、お菓子の代わりにこれ飲んでみない?」
僕が持って来た瓶を見てゆうき君は目を丸くする。
「これなに?」
「これはね~ ゆうきくんのパパが好きなジュースのお友達で、ゆうき君も飲めるんだよ」
「えっ!!!!」
僕が飲んでもいいと言うと、ゆうき君はびっくり仰天だ。
「何で? 何で飲んでいいの? パパは飲んだら悪い子だって言っていたのに…………」
親の言いつけを守ろうとしてえらい! でも、これは良いんだよ。
「これはね…お父さんが好きなジュースのお友達でゆうき君が飲んでいいやつなの。だから飲んでも怒られないよ」
「ホント!」
小さな子に悪いことを教えているみたいで、少し罪悪感を覚えるがあくまでこれはソフトドリンクだと自分に言い聞かせて、レジに隠してある紙コップに注いでいく。
瓶の半分くらいを注いでから、それをゆうき君に渡す。
「どうぞ」
「ありがとう」
にまーっと笑顔を浮かべ受け取ったゆうき君は、中に注がれたものを観察しだす。
「ホントにいいの? お父さんはもくもく飲んじゃダメって言ってたのに…………」
コップの上に浮かぶ泡を見て葛藤している。
「いいんだよ。これなら絶対に怒られないから」
やっぱり悪いこと教えているみたいだな…………
僕が背中を押したことで、ゆうき君はコップを傾けだす。
ちびちびと飲み、少しするとコップを戻して「美味しい!」と満面の笑みを作る。
そんなゆうき君にコップと一緒に取ってきた手鏡を向ける。
「ゆうき君、おひげ出来てるよ」
口の周りに泡が付いて、髭のようになっている。
「わぁ~ お父さんと一緒だ!」
自分の姿にさらにテンションを上げるゆうき君。
これならいい思い出になってくれるだろう。
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