ランブルスコ セッコ ④
しばらく一心不乱に飲んで食べてしていた川出であったが、いつの間にか綺麗に平らげていた。今では紙ナフキンで口の周りを拭いている。
「鵜飼君、お待たせ。それじゃあ何を答えればいいかな?」
ワイン一本を一人で飲み切ったのに、酔った様子を欠片も見せない川出。
心の中でほんの少しだが、酔って話にならないのではと心配していたが、杞憂に終わって良かった。
「働きながら学校に通うって出来ると思いますか?」
あらかじめ成美が聞いてみたことを伝えておいてくれたのか、返答はすぐに来た。
「私や成美君みたいに、通信制の高校とか定時制の高校なら働きながらも出来るかな。
でも、普通の高校だとはっきり言って無理。仕事をしながらだと毎日昼間に通えるわけがないもの」
「川出さんのように通信制なら問題ないってことですか?」
川出は苦笑する。
「問題ないなんてことはない…かな。そもそも私がなんでこんな年で高校通いしていると思う?」
聞いていいことか分からず、聞けずにいたことを本人から切り出してくれた。
では、なぜ何年も遅れて高校に通っているのだろうか?
成美と同じように体に不調が? でも、見た感じそんな様子はどこにもない。
完治しているからと言われればそこまでだが、違うような気がする。
「何があったか教えてもらえませんか?」
彼女は頷き、話始める。
「鵜飼君、ヤングケアラーって言葉を分かるかな?」
「分からないです」
「そっか…簡単に言えば、介護にかかりっきりになった子供のことを言うんだけど…
まさに私がそれなんだ。話が重くなるから、簡単にしか話さないけれど私は中学二年の頃から
祖母の介護をしないといけなくなったの。他に誰も頼れないし、お金もない。そんな状況が何年も続いた。お金があれば、介護を頼めるけど…私がやるしかなかったの。長い時間目を離せないから高校に通うこともままならなった。そして、私の同い年が高校を卒業することまでそんな環境が続いたの」
その状況が終わったということは…誰かが助けてくれた。もしくは…
多分、後者なのだろう。
「介護に何もかも費やしていた私は一人になって決心したんだ。自分の人生をこれから楽しむんだって! まずは高校生活を取り戻すんだ! ってね。お金の問題を解決するために、働きながらっていう形ではあるけれど高校に通えるようになったの」
「すみません…そんな辛い話をさせてしまって」
「いや、良いのよ。今の私は楽しんでいるもの。こっちこそごめんね。話が脱線しちゃった。
それでなんだっけ?」
「働きながら学校に通うことで起きる問題は何かってことだろ?」
成美が補足してくれる。
「ああ、そうだったね。最初に言えることは、どうしてもそうしないといけないって状況でないなら辞めたほうがいいってことね」
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