サントリー ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム ③

 送ると決めてから僕は、仕事の合間を見つけては自分のお中元を選んでいた。

 店に置いてあるもの以外にも、各メーカーがいろんな中元ギフトを用意している。

それらがまとめられたカタログのような物をメーカーごとに送ってきているので、その中にもいいものがあるのではと思って見ているのだが…

「やっぱ、酒たけぇ~」

 一番安いセットでも2000円以上する。今僕の所持金は1330円。

図書館で勉強を始めたころから、少しだけお小遣いをもらっている。

飲み物買ったり、電車賃に使ったりしろとのことだが、お金のない生活に慣れた僕はほとんど使っていない。そのため一文無しというわけではない。出来るならそのお金の中で贈り物をしたかったのだが…

 お酒が入ってないものにすれば何とか買えそうだけど、折角酒屋で働いているのだ。贈るならお酒がいい。

「何がいいのかな~」

 カタログの前であーだこーだ言っていると、遠くの方で仕事していた天音が隣に来て

「悩みか?」と尋ねてきた。

「悩みと言うほどの事ではないです… けど、実は——————」

 お中元を送ろうとしていることを天音に説明していく。

「なんだそんな事か。別に金なら出してやるぞ?」

「いや、そこまでしてもらうわけには…」

 と言いつつも、今手元にあるお金も天音から貰ったものなのだが…

わざわざ、このためにさらにお金を貰うことは気が引ける。

「まぁ、お前がそうしたいなら構わないけど、それで何にするか迷っているのか?」

「はい… 送るってなると箱ものじゃないと心配ですし、難しいです」

「うーん」

 天音は唸りながら、店をぐるぐると回り出した。

良さそうなものを考えてくれているのだろう。

 そして、少し経って戻ってきた天音の手には金色に輝く立方体があった。

「これなんていいんじゃないか?」

 差し出された立方体を受け取って観察してみる。

 どうやら350ミリリットルのビールが4本入ったセットのようだ。

 少しだけ箱に切れ目がありそこから缶の様子が見て取れる。

 上半分が黒で、下半分が金色。中央には聞きなじみのある「ザ・プレミアム・モルツ」と書かれている。でもいつものプレモルとは外見がだいぶ違う。

「こんなの店にありましたっけ?」

「いや、お中元とかお歳暮の時期限定で発売される商品だから普段は置いてないな」

 天音の話ながら、さらに箱を観察する。

 この商品の名前は『ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム』と言うようだ。

「これってどんなビールなんです?」

「パッケージの名前の下に<醸造家の夢>って書いてあるだろ? まさにその通りのビールなんだ。効率や生産性を度外視して、ただ『うまさ』だけを追い求めて作り出したビールで、飲むといろんな味わいが波のように押し寄せて来て、幾重にも重なるうまさを体験できるんだそうだ」

「でもお高いんでしょ?」

「いやいや、お前の予算内ぎりぎりで買えるぞ。まぁ、4本セットの場合だけどな」

 四本でギリギリと言うことは少し、普通のビールよりも値が張るビールのようだ。

自分で買うには少し気が引ける値段。だからこそ、贈り物にするのがいいのかもしれない。

「買います!」

「分かったよ」

 すぐに会計を済ませる。だが、済ましてから気が付いた。

「あっ、送料…」

 失念していた。ここから家まで送るにはどうしても1000円くらいかかってしまうのだ。

「それくらいは、私が出してやるよ」

「すいません…お願いします」


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