鍛高譚 完
「キレイ…」
一度見たことがあるのに、どうしてもその言葉が漏れてきてしまう。
先ほどと同様、きれいなのは一瞬。
でも、その一瞬はこの世のどんなものにも負けないくらい綺麗であった。
その余韻に浸っていると
チーン
入口からベルの音がしてくる。
この音は誰かが入ってきた音。
お客さんが来たのなら、迷惑かけないようにしないといけないなと考えるが、それは杞憂に終わる。なぜなら、入ってきたのは私が待っていたお兄さんであったから。
「天音さーん、終わりましたよ~ あれ?」
私たちがいるレジにのそのそと歩いてくる。仕事の終了の報告をしに来たのだろう。
でも、最後の驚き声は何だろう?
お兄さんは目を丸くしたまま、私たちの前にある薄ピンク色の瓶を手に取ると
「何でお酒空いているんです? 天音さんは飲めないし、まさかたまきに飲ませたんですか?
何やっているんです! たまきは未成年ですよ!」
早合点が過ぎる。
自分の中で勝手に自己完結して暴走を始めるお兄さん。
そんな彼に、天音さんがバチーンとデコピンをかます。
「そんなことは分かっているわ! 飲ませてねぇーよ。そこに注いだのがあるだろ。よく見ろ!」
その一言でお兄さんは理解したのか、落ち着きを取り戻し始めるが
「でも、これどうするんです? ここにいる誰も飲めませんよね。勿体ないですよ」
と指摘を続けてくる。
「隣の家にでも持っていけばいいだろ。それにさ」
「それに何です?」
「これも立派な投資だよ。将来たまきがうちの客になるようにするためのな」
「えー、こじつけですよね」
「違う!」
「違くないですよ!」
その後も、暫くの間二人の口喧嘩が続いた。隣にいる私なんか置いてきぼりで。
最近お兄さんと天音さんが以前に増して仲良くなっていっている。
会ったばかりの頃よりも二人の関係が近くなっている気がする。
お互いに信頼しきっているのが、すごく伝わってくる。
私じゃそうは慣れないのかな?
たぶん今のままじゃ、きっと慣れないと思う。
でも、いつかは…
そうじゃないと、いつか天音さんのことが『苦手』から『嫌い』に代わってしまいそうだから。そんな風になりたくはないから、私も頑張らないとな。
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