赤玉スイートワイン ③

 僕とたまきの問答はそのあと暫く続いた。

 「えっち」と暫く罵られて、それにも屈せずこれはお酒の資料なんだと説明した。

そのおかげで、何とか誤解は解けた…はず。

「ところで、赤ポートワインて何です?」

 僕の気なんて知ったことかと、たまきは尋ねてくる。

「何の話?」

「お兄さんが資料と言い張るこの写真の下の方に、『赤玉ポートワイン』って書いてあるんです」

 確かに言われた通り、ヌードの女性の下に『赤玉ポートワイン』と書かれている。

あれ? でも、赤玉ポートワインなんてあったけなぁ?

『赤玉』はうちのどこかで見たことがあるような気がするけれど、ポートワインなんて名前ではなかったはず…

「ごめん、分かんない」

 最近、だいぶ覚えてきたと思っていたけれどまだまだ不十分だったようだ。

「なるほど、なるほど。勉強目的じゃなくて他の目的で…」

「だから、違うって!」

 たまきはクスクスと笑いながら、結局店を出るまで僕をいじり続けてきた。

危うく「こんなのじゃおかずに…」なんて言い返しそうになったのを踏みとどまった。

それを言ったらさらに攻撃が来るに決まっている。

ナイス、僕!


 たまきを見送って、やっと一人の時間を取り戻す。

まだ、閉店まで暫く時間があるしゆっくり資料を見れそうだ。

 ノートの最初の一ページをめくる。

 すると、そこにはずらりと文字や写真、絵が並んでいる。

 どれもお酒に関するもの。

 この店でよく見るものから、そうでないもの。

たくさんのお酒の情報がまとめられているのだ。

「すごい」

 思わず、感嘆の声がこぼれていた。

 綺麗な字で分かりやすくまとめられている。

 沢山の時間を費やしているのが、ありありと伝わってくる。

これを作ったのは字の癖的に天音だろう。

 彼女の努力が手に取るように分かる。

今の彼女の山のような酒の知識はこうして作られた。

 天音は特別なのだと心のどこかで感じでいた。

でも、天音も僕と何も変わらない。

こうやって努力しているからこその結果なのだ。

 自分の至らなさを噛みしめながら、読み進めると

『赤玉スイートワイン』という項目に目が留まる。

「これだ、店で見た赤玉は!」

 さらに読み進めていく。


『赤玉ポートワイン』は現在の『赤玉スイートワイン』の旧名だったようだ。

だから、僕が知らなくて当たり前だ。

 読み進めていく中で他にも興味を引く写真があった。

それは、新聞の一面を写した写真。

 ただの新聞の一面ではない。

中央に大きく『赤玉ポートワイン』と書かれ、その横に真っ黒な丸が書かれている。

この落書きみたいな書き込みは何なのだろうか?

 さらに、ノートを先に進もうとしていると

「大輔~」

 これの主が帰ってきた。

「お疲れ様です」

「おう」

 今日も仕事がしっかりと終わったのだろう。

清々しそうな顔で僕のもとへ来た。

だが、その顔はすぐに崩れる。

 僕が開いているノートを見ると—————


「大輔 なんでお前がそれを…」


 驚き顔を浮かべている。

「倉庫で見つけて…」

 理由を説明していると、バシッと僕からノートをひったくる。

「これは、金輪際読むな!」


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