清洲城信長 鬼ころし ②
一週間後
ザーザー、ザー、ビチョ、ザーザー
ピチョ、ザーザーザー、サー、ビチョビチョ
まもなく梅雨入りだからか雨が続いている。
湿度が高いせいでジメジメ。
狭い店の中はムシムシしていて居心地が悪い。
湿気を吸った段ボールたちがふにゃふにゃになって糊付けが取れてしまうから、そうならないように数日前から除湿器がフル回転している。
その稼働音が耳に残るのも鬱陶しい。
梅雨って本当に嫌いだ。
チーン
こんな雨の中、誰か来たようだ。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのはあのおじいさん。ふらふらはいつも通りだが、全身ビトビトに濡れて、前回とはまた違ったところに血を流しながら店に入ってきたのだ。
「大丈夫ですか? また、転んだんですか?」
持っていたタオルを渡しながら問いかける。
「あ、ああ。さっき滑って転んだんだわ」
何もなかったかのように返事をして、僕が渡したタオルで濡れた体と血を拭っている。
おじいさんは気にしていないようだが、こうも怪我が続くと心配になってくる。
「本当に大丈夫です? 病院行かれました?」
「心配いらんよ」
「ご家族の方はいらっしゃらないのですか? 出来たら一緒に来たほうが…」
心配のあまりあれこれ言ってしまう。すると、
「くどい! いつも酒持ってきてくれ」
と軽く怒られてしまう。でもさ、心配な気持ちは分かって欲しいのよ。
それから、すぐに『清洲城信長 鬼ころし』を持ってくる。
「お会計1×××円です」
僕がそういうと、前回同様取りにくそうに財布を取り出してお金を支払おうとする。
だが—————
ジャラジャラ、ジャラジャラ、ジャラジャラ
チャリチャリ、チャリチャリ、チャリチャリ
お財布の中身を全部ぶちまけてしまう。
がま口財布には小銭がたくさん入っていたのか、結構な大きな音がしていた。
おじいさんは屈んでお金を拾おうとするのだが、ふらふら、ふらふら、ふらふら。
ちょっとしたことで倒れてしまいそうだ。見かねた僕は
「僕が拾いますから、そこにいてください」
「すまんな」
5分くらい床に張り付いていて、全部拾いきれた。
拾った硬貨やお札は軽く濡れていたから、そのせいで取りにくかったのだろう。
それから、そのお金で会計をしたおじいさんは雨が降る中を傘もささず、ふらふら、ふらふら、ふらふら、振り子のように左右に倒れそうになりながら自転車で帰っていった。
「あの、おじいさん大丈夫なのか?」
心配なのだが、店を閉めるわけにも行かず何もできない。それが、すごく歯がゆい。
チーン
おじいさんが来てから一時間くらいたったころ。
店には初めて見た女性が店に入ってきていた。
短めの髪を後ろで縛った、40代くらいの女性。
傘を片手に僕の方へやってくる。
何故だか、その女性の顔は悲しそうに歪んでいる。
「いらっしゃいませ」
と声をかけると、女性はこういうのだ。
「もう、お父さんにお酒を売らないでください」
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