中々 完
「何でそんな大事な瓶がうちの店にあるんです?」
天音の話を聞き終えて、一番初めに浮かんだ疑問だ。
その瓶が二人の仲を取り持ったなら、その二人が貰うなり、記念に店に飾っておきそうなものなのに。
「あ、ああ、それは…」
天音が珍しく言葉を詰まらせる。
「何かあったんです?」
「その店の大将が、天音ちゃん独身だろ! これ持ってればいい出会いがあるよ。って無理やり渡してきたんだよ」
「な、なるほど」
「こんなもん貰ったって、こんな仕事漬けの女を貰いたがる男なんていやしねぇよ。お前もそう思うだろ?」
自虐気味に言う彼女に僕の本心を告げる。
「そんなことないですよ! 天音さんはお綺麗ですし、一緒にいて楽しい。きっと、いつかいい人が来てくれますよ」
「は? 何言っているんだよ」
僕の言葉に彼女は目に見えてうろたえだす。頬が少し赤くなっているような気もする。
今まで面と向かってこんな風に言ったことは無いが、内面をみなければ大人らしい見た目で、さらさらとした長い髪、整った顔とすごく魅力的な人だと思う。
それに、最初は残念に思えた子供らしい内面も付き合いが長くなるにつれて親しみやすくていいものになっているし、彼女がその気にさえなればすぐにでも相手が出来るだろう。
「僕の本心ですよ」
「う、うるせぇ」
こちらに背を向けて、顔を見せないようにしたまま母屋の方へ走って行ってしまった。
初めて見る天音の表情にふと可愛いなという思いが浮かんでいた。
数日後——
大きな飲み屋から沢山の一升瓶を回収したので、今日もせっせと仕分け中。
そんな時、また文字の書かれた瓶が見つかる。
「なおちゃん」
と白いペンで書かれており、その下には可愛らしい猫のイラストが描かれている。
その瓶を眺めていると、
「この瓶にも何か物語があるのかな?」
という考えが浮かんできた。
一升瓶は何度も何度も酒を詰められて、色々な人の手を回る。
酒好きなお父さんや初めてお酒を飲む20歳、酒屋の店主、年老いた老夫婦、厳ついお兄さん、独身にこだわるお姉さん。
等など様々な年代、性別、仕事の人たちのもとを冒険しているのだ。
だから、同じように見える一升瓶たちそれぞれに、それにしかない物語があるような気がするのだ。
そんな物語に少しでも触れてみたいから、適当に作業するんではなくて一本、一本触れあうようにしていきたいと思う。
次はどんな物語に出会えるかな。楽しみだ!
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