キリンクラシックラガー ③

「お父さん飲んだ時どんなこと言っていたか覚えている?」

 たぶん世界中を探しまわれば、ピーマンを原料にしたお酒も見つかるだろう。

うちにもニンジンを原料にした焼酎があることだし。ありえない話ではない。

でも、この子が言うピーマンは何かの例えでもっとなじみ深い何かを探しているような気がする。だから、そのヒントを得るために色々聞いていく。

「冷たくて美味しい!」

 冷やして飲むのかな?

「なるほど、他には?」

「缶で飲んでた!」

 缶となるとだいぶ絞れそうだ。あと一押し。

「後は、無いかな?」

 うーん、うーん、うーん

と頭を左右に揺らしながら考えている。

ヤッパリ、カワイイ、カワイイナー

「ピーマンみたいに苦いって言ってた!」

 なるほど。ピーマンは『苦い』の例えだったのか。

確かに苦い=ピーマンってイメージは僕の中にもあるから、そんな風に言いたくなるのも頷ける。

「苦いジュースなんだね」

「うん! ピーマン美味しくないのに、お父さんはピーマンのジュース美味しそうに飲んでるの。苦いのがいいって不思議だね。美味しくないのに… 僕は絶対飲みたくないなぁ」

 すごく不思議そうな顔で聞いてくる。

 それは…大人になれば分かる…はず。僕も飲んだことないからはっきりしたことは言えないけど… 実は僕もピーマン苦手なんだよね… なんて恥ずかしくて言えないから笑って誤魔化しておく。

「シュワシュワで苦いジュースであっているよね?」

「うん!」

 となると、たぶんお目当ての物はビールだろう。

缶に入っていて、苦くて、シュワシュワしていてそれに加えて冷たくして飲む。

完璧に一致しているし、たぶん間違いないだろう。

「どんな感じのを買いたいの?」

「すごーく、すごーく苦い奴!」

「苦いのがいいの?」

「うん! お父さんがお手紙で苦いやつ飲みたいって言ってたんだ」

 一口にビールと言ってもたくさんの種類がある。

その中から、苦いもの。

ゆうき君の様子からうんと苦いものの方がよさそうだ。

さて、何がいいかな?

 そんな風に考えていると


チーン

「いらっしゃいませ」と挨拶をしながら入り口に目をやると、そこには天音とゆうき君の母親が店に入ってきたのだ。

 天音はいつも通りだが、母親の方は…少し雲行きが怪しそうだ。

「あっ! お母さん!」

 嬉しそうにゆうき君が母親のもとへ行くと————


「こらっ! ゆうき! ダメでしょ!」


 母親の雷が直撃する。


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