贅沢搾り ⑤


「中町さんでいいかな? 中町さん何かあったか教えてくれないかな?」

 名前を名乗った後、彼女は視線をこちらに向けたり、足元に向けたりを繰り返している。言おうか言わないか悩んでいるのだろう。

 少しでも緊張を解いてもらおうと思い、別の話題を振ってみる。

「中町さんはどうしてうちに何回も来ていたの? お酒なら他のお店でも買えるけど、何でうちに何回も来てくれたの?」

「そ、それは……」

 俯きながらではあるが、ようやく話しだしてくれた。

小さな声を聞き逃さないように、耳に神経を集中させる。

「ふるいお店だから、監視カメラなさそうだし……」

 うちにも監視カメラはあるが、コンビニなどのように店を全て監視しているわけじゃない。

だから、彼女の言い分もあながち間違いではないと言える。

「後は……お姉さん耳貸してください」

 言葉を詰まらせた中町。何かあるのだろうと察した天音が耳を貸すと

「………………………………」

 ぼそぼそと何かを話す。

 話し終えて中町が天音の耳から離れると、天音がケタケタと笑い出した。

何か大事なことなら、そんな風に笑うなんてことは絶対にしない。

だから、何か面白いことだったのだろう。

 僕が聞きたそうに、天音に視線を送っているとそれに気が付いたのか

「大輔聞きたいか?」

 と尋ねてきた。

すると、中町が驚き顔で

「お姉さん、言ったらお兄さんに失礼ですよ」

と言うのだ。

 僕に失礼とは?

中町の発言に再度、天音が笑い出す。

「そこまで言ったら、教えているようなもんだろ。言ってもいいか?

本人が知りたそうだし」

「まぁ、私は構いませんが……」

 渋々の了承を受けて、

「この子が言ったのは『間抜けそうなお兄さんしかいないから、ここなら大丈夫』って思ったんだとさ。大輔お前何したんだよ~ あー腹痛いわ~」

 ケタケタケタケタ

 よほどツボに入ったのか笑い声が止まらない。

 間抜けそう? 

僕が?

何でそんな風に思われているのか考える。

 すると思い当たる節が色々と思い浮かんでくる。

もしかして、「スクリュードライバー」って叫んでいたの見られた?

それとも、レジ袋を息でぷわぷわ浮かして飛ばしていたの見られていた?

あっ、……かも。

 考えだすと自分の汚点のような物がどんどん思いつく。

 店に慣れすぎて、お客さんがいない時暇つぶしにいろんなことをしていた、

店の中には誰もいないことは確認していたが、外から見られていたのかもしれない。

もしも見られていたのなら、間抜けと思われても仕方がない。

それくらい子供っぽいことをしていたのだ。

「どうした? 怒ってもいいんだぞ」

 天音は煽るように聞いてくる。

「い、いや~ 人の見方はそれぞれですよ~」

 本当にみられていたとして、恥ずかしすぎるから怒るに怒れない。

「ちぇ、つまらない奴だな」

「僕は寛大な心を持っていますからね」

「何が寛大だよ~ もうしゃべるな 笑いすぎて死にそうだよ」

 天音の笑い声が続く。

 少し悔しい気持ちでその笑い声を聞いていると、違う笑い声が混じっているような気がする。

ここにいるのは僕、天音、それと——————


 中町に視線をやると、クスクスと笑っている。

年相応と言った感じの子供らしい笑顔を浮かべている。

 先ほどまでの、緊張しきった顔が嘘のような笑顔でクスクス、クスクス。

クスクス、ケタケタ、クスクス、ケタケタ。


 天音と中町の笑いが収まったところでもう一度聞いてみる。

「中町さん、どうしてお酒を買おうとしたのか教えてくれないかな?」

「分かりました。酒を買おうとしたのは——————————」

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