サントリーローヤル ③
今日の夕飯は、天津飯。
天音は腰のせいで、包丁を持つのが怖いらしく、包丁を使わずに出来るものにしたようだ。勿論文句はない。
僕が作ると焦げ焦げのスクランブルエッグの山が出来るだけだから。
フワフワの卵と、とろとろの餡を楽しみながら、さっき気が付いた話を天音にする。
「天音さん、なんでこの時間帯に酒のCM多いんですか?」
「いきなりなんだ? 藪から棒に」
「いや、さっきからお酒のCM多いなって思って」
現に今も、ジムビームのCMが流れている。
「ああ、そうだな」
「何か理由があるんですか?」
尋ねると、彼女は食べるのをやめて考えだす。
それから、少ししてまた口を開く。
「少し前に規制が厳しくなって、消費者金融、パチンコ屋、タバコのCMは流しにくくなった。
たぶん、そのせいで相対的に酒のCMが多く流れているように思えるんじゃないかな」
「へぇーなるほど。じゃあ、酒のCMは規制されなかったんですか?」
「一応は規制されているぞ。未成年が興味を持つような可愛らしいものとか、キャラクターを使うなとか、流す時間帯を絞るとかな。でも、日本はだいぶ甘いほうだと思うぞ」
「海外だとどうなんです?」
「フランスやスウェーデンは酒類のテレビ広告禁止だぞ」
「マジすか」
「ああ、一概にどれが正しいとは言えないが、未成年に悪い影響が出ないようにしようって考えはどこも同じだな」
先ほどまで酒のCMがこんなに多くやっているなんて知らなかった。
でも、それはしっかりと未成年が気にならないよう、テレビ側が配慮してくれているおかげだったのかもしれない。
知りたいことが知れたし、冷めないうちにと天津飯を楽しんでいると
「そういえば、昔のCMで親父が好だったのがあるな」
天音が年寄りみたいに懐かしがって言うのだ。
「なんのお酒です?」
「サントリーローヤルだよ」
サントリーローヤル……ブレンデッド・ウイスキーの一種。一昔前、相当高価なお酒で富裕層の贈り物として有名であったが、酒税法の改正や山崎、白州などの高品質なウイスキーが誕生したことにより値段が下がり、お求めやすい価格になったウイスキー。『酉』のカタチをボトルに模り(かたどり)、栓を神社の鳥居に見立ているのも特徴だ。
人気は少し落ち気味だが、それでも根強いファンがいる。
と少し前に天音に教えてもらった。
確かに、うちの店でも若いお客さんよりも高齢なお客さんが好む印象がある。
「どんなCM何です?」
「刑事コロンボのピーターフォークがやっていたはずなんだが…… すごく小さい頃だったから、内容はしっかり覚えてないな。とにかく親父が好きだって言っていたイメージが強いんだ」
「見てみたいです!」
「探しておくから待ってろ」
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