ほろよい アイスティーサワー

「酒の大沢」

 今日も客がゼ……

 いい加減この件飽きたよね。

 暇ですよ、暇! 


 今日は珍しく天音の配達が午前中に入らなかったので、母屋の方からケラケラと笑い声が聞こえてくる。大方、テレビでも見ているのだろう。

 僕(鵜飼大輔)というと、陳列棚の掃除をしている。

 この店の陳列棚は、8つあり日本酒やワインなどと種類ごとに棚分けされている。

 日の当たらない所に置いたほうがいいワインは一番奥、配達でよく出る焼酎が手前と色々と考えて並べられているようだ。棚の取り付け方にも工夫があり、傾けて保存したほうがいいワインは角度を付けて、日本酒などの金属キャップがあるものは水平に取り付けられている。

何でそうしているかは、まだ聞いてないが棚の配置にもこだわりがあるのだから、何かあるのだろう。

 この店の棚は、初めて来た人に驚かれる。

その理由は棚の高さが『3メートル』くらいあり、びっちりと酒が並んでいるから。

 敷地が狭く、天井がやたらと高いうちの店は、品数を増やそうとするとどうしても上に伸びてしまうのだ。そのため、段々と棚を足していった結果、3メートルを超えたようだ。

あっ、しっかりと耐震対策はされているので、その点はご安心を。

 普通に手の届かない所もあるため、そこにある商品が欲しい人がいた場合、僕や天音が台を使って取ってあげている。まぁ、一番上は○○万円とかの高額商品ばかりだから、呼ばれることはほとんどないのだが。

 で、その高く作られた棚の埃や汚れを取っているのだが、正直言えば今すぐに止めたい。

 何故かというと——————


「虫がやばいから!」


 虫というものは、棚の裏とか上の方とか、人の手の届きにくいところを好みやすい。

そのため、うちの棚は虫からしたらいい住処なのだ。

蜘蛛とかハエの大きいやつとか、カメムシだとかがたくさんいる。

 生きているならまだいい。大体のやつが死んでいる。

だから、刺激してどっかに行ってもらうとかもできず、全部取り除くしかない。

 テレビのCMで『埃を吸着』とか謳っている、棒にフワフワしたものが付いてるやつで、ほこりなどと一緒にくっ付けて取っていく。

ついでに、出来たばかりの小さな蜘蛛の巣もくるくるっとしてぶち壊す。

 一体こんなにたくさんの虫はどこから湧いてくるんだろうか。永遠?の謎だ。

まぁ、幸いというか例の黒い奴はまだ拝めていない。

いるのだとしても、顔なんて出さないで欲しいけど。


 そうして、棚上の掃除をやっていると、母屋から聞こえたケタケタという笑い声が聞こえなくなってきた。ついでに、ドスドスと足音が聞こえる。

バーンと母屋と店を繋ぐ、扉を開くと天音が出てきた。

「大輔! 話がある。ちょっと来い」

「分かりました~ あと少し何で終わったら行きますね」


 残りを手早く掃除して、天音の呼び出しに応じる。

「お待たせしました。それで、話って?」

「ああ。ちょっと来い」

 そう言って、レジの前まで進んでいく。

自分を付き従うとレジの前のある空間に止まる。

 そこには、他と同じように棚があるのだが、少し他とは違う。

だって、そこは————————


商品が何もないのだから。

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