クリアアサヒ
とうとう片付けられ始めた門松やしめ縄たち。
初夢などとうに忘れ、雲の上にいるようなフワフワとした金色の時間が過ぎ去り、人々は灰色の現実に引き戻される。
そうして、多くの人は金色の時間を諦め生活を再スタートさせるが、鵜飼大輔は自分一人のメッキが塗られた時間にどっぷりと漬かりこんで、現実から目をそらした日々を送っていた。だが、そのメッキは母によって木っ端みじんに壊されたのだ。
小学校だか中学校の教室と変わらないくらいの広さ。
年季を感じられる所々塗装が剥がれた柱。
所狭しと棚が並び、それらを埋め尽くすほどの瓶。
やたらと高く積まれた、ビールが詰まった赤や黄色のケース。
申し訳程度に置かれたお菓子やおつまみ。
「酒の大沢」
はそんなところだ。
僕は一人店番をしている。
先ほど出会ってすぐの女性、店主の大沢天音にいきなり
「店番よろしく!」
と言われて、取り残されたのだ。
こんなことしないで、お年玉で買ったばかりのゲームを進めたいが、肝心のゲームは母の陰謀により手の届かない所にある。それに、天音のおっかない姿を思い出してしまい、それが自分に向くかと思うと怖くてサボるにサボれない。
「はぁー 温かい~」
ぶらぶらと店を回ってみるが、店の中はキンキンに冷えている。
これが、ビールなら喜ぶ人もいるだろうが、この場合は全く嬉しくない。
寒さを紛らわせるために、レジに置かれたストーブに張り付き始める。
そのまま猫のように張り付いていると店の入り口の自動ドアが開いて、凍えるような風が吹き込んできた。
その風につられて、入り口を見る。
天音が返ってきたのだろうと思っていると、腰の曲がったおばあさんがゆっくりと店の中に入ってきた。
ふと、自分の仕事を思い出して、
「いらっしゃいませ」
と声をかける。
おばあさんはにこっと笑って、ゆっくりとした足取りのままこちらの方へ近づいてきた。
「あらあら、新人さんかしら?」
「は、はい…」
自分を新人と称していいのか迷ったが、居候ですというのはどうしてか嫌だったので肯定しておく。
「お兄さん おいくつなの?」
「17です…」
「そんなに若いのね。 今日は高校お休みなの?」
痛いところをつかれる。自分は今、ある高校には所属しているが通えていない。
深―い理由があって、半年くらい自宅を警備していた。
要は、不登校だが、僕としては同じくくりにされるのは解せない。
チクリ、チクリ、チクリ
思い出すのは辞めておこう。
説明できそうにないから適当に返事する。
「えーっと、そんなところです」
誤魔化すように、答えるとおばあさんはすぐに話を変えてくれた。
「そうそう 店主さん今いないの?」
「さっき、どこかに行ってしまわれて…」
「そうなのね なら…」
思わず身構える。
何かを頼まれてもこの店に来たばかりで、何の説明も受けていない自分では何もしてあげられない。ここに来て初めて見た禿親父のようにクレームを付けてきたらどうしようか…?
まぁ、優しそうなおばあさんだし大丈夫かな~
と自問自答していると、おばあさんはまたにこっとして口を開く。
「店主さんが帰ってくるまで、おばさんの話し相手になってくれないかな?」
「えっ!?」
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