宙ぶらりんの関係を維持する

 結局、私は相手の言いなりになって会食に参加したばかりか手前勝手に衝動買いした抗原キットの代金全てを支払いました。

「貴方とは良い関係でいたい」

 と言う、心にも無いリップサービスつき。

 タケさんのように、義姉もまた、こう言う配慮を「服従の表明」と受けとる事でしょう。

 しかし、当日の義姉のオドオドした態度と、今回の考察から考えると、悪い選択でも無かったのかも知れません。

 

 前回の繰り返しになりますが、義姉のような人間は「支配するか、されるか」で全ての人間関係を見ます。

 そして厄介なのが「良い評価を頂く・信頼される事が最も危険である」事です。

 この手合いから信頼されればされる程、満足してもらうハードルが際限無く上がって行きます。

 他の詳しい方々の受け売りですが、この手合いは「母親が全てを察してくれて当然の乳飲み子」のまま精神が停滞した(もしくは退行した)人間です。

 この人達の要求に応じれば応じるほど、ある日、何か一つ察してあげられなかった時に逆上されます。

「信じていたのに裏切られた!」と。

 かと言って、わざと評価を下げてもサンドバッグにされるだけです。この手合いの評価が高くても低くても、最後に行き着く先は恐らく同じです。

 これを防ぐには「どっち付かずの宙ぶらりん」を維持するしかありません。

 恐らく、現在の義姉は、私が敵なのか奴隷なのかの判断がついていないのでしょう。

 初期のタケさんも、今にして思えばそんな様子でした。

 どちらかに振り切れれば、形が変わるだけでA社の二の舞です。

 相手の中で私が得体の知れない存在であり続けてくれれば……と、言うだけなら簡単です。

 当然の事ながら、義姉のような人間が、そのようなストレス因子を放置するとは思えません。

 どうにかして、どちらかの結論を出そうと躍起になる筈です。

 そんなわけで、ただでさえアウェーな場で、義父を中立のまま留めておく事にも心を砕かねばなりません。

 今の所、前回考えたような「無視の既成事実を与えない塩対応」を取り続けるしかないように思えます。

 堂々巡りですね。

 

 こう言う手合いの対処については星の数ほど調べましたが、そのほとんどが「出会った時点で抜け出さないから困っている」と言う事が抜け落ちていたと思います。

 義姉のような人間に最も「ダメージを与えられる」のは無視です。

 先も述べたように、乳児のまま心が止まった人達です。乳児にとって母親の無視は命に関わります。

 この人達の認識では 母親=全ての他者 です。

 ただし、無視は「やっつける」事だけを考えられるなら最適解ですが、関係をある程度維持しなければならない場合には危険です。

 誰しも、命の危険に抵抗する時ほど必死なものはありませんから。何をされるかわかりません。

 思えばタケさんも、時たま私が答えあぐねた時に「無視? ねえ、無視?」とブチキレていました。

 正直な所、チンピラが口実を無理やり捻り出した程度にしか考えていませんでしたが……こうした理屈を考えると、あれは本気の病的反応だったのかもしれません。

 

 そして先にも述べましたように、義姉やタケさんのような人間に振り回される状況と言うのは、親族や職場と言う、逃げようのない場所に限られます。

 つまり、人間関係が発生している時点で手遅れなのです。

 彼女らの対処を書いた(学術的にかなり信憑性のある)サイトですら「部署異動を願い出る」「最初から関わり合いにならない」などの不可能な事ばかりを並べているように思えます。

 経営が下手なブラック企業に部署異動なんて気の利いた対応は出来ませんし、距離を離してもタケさんのようなストーカーはあの手この手で追いかけてきます。

 知識の上で詳しい人達ですら、どうしようもないと半ば匙を投げるしかない。これが現実なのかも知れません。

 

 言うなれば義姉は「サッカーで自分だけが手を自由に使う選手」のようなものです。

 妻も「弁が立つ」と評価していましたが、それは審判を買収した状態でしかゲームに参加しないからで、「負ける事がない」のは当然の事です。

 そして彼等には「人間の言葉が理解できていない」事にも留意する。

 こちらの言葉を拾ってそれらしく返事をしているので対話が成り立っていると錯覚しがちですが、よく観察すると、全く噛み合ってない瞬間が要所要所にあります。

 だから、どんなに憎くても邪魔でも「戦おう」などと考えてはいけません。

 大抵、有力者や大勢の同情を買っているので、そこで正論を言えば悪者にされるだけです。最悪、周りが全て敵に回ります。

 まず“対話”自体を極力発生させない。

 それが本音であれ建前であれ、非難であれ称賛であれ「意味のある言葉」を一切発してはいけない。

 何を話しても聞かれていないばかりか、わざと曲解して利用されるだけです。

 そうまでしても、恐らく「うん」と言う相槌ですらも材料にされるかも知れません。

 十中八九「逃げるのか」「ちゃんと話し合おう」と言う挑発があるでしょうけど、絶対に感情的にならずオウムの鳴き声として聞き流しましょう。

 逃げるだの説明責任だのも、向こうがもっともらしく定めた自分ルールです。

 私のケースで言えば「コロナを警戒して私の一家は参加を見送る」と言う当然の権利を主張しただけであり、それを否定するなら説明責任は義姉にあります。

 それを「会食は子供と面会する少ない機会だ」と論点を摩り替え、まさしく「自分だけがハンドを許されるサッカー試合」を構築していました。

(こちらの主張は参加見送りであり、義姉らが会食をするなと言う意味ではありません)

 だから私は今のところ義姉に対して「無視の既成事実を与えない塩対応」を考えています。

 私が口下手なのは悪意からではありませんから。

 ただしこれも、タケさんのケースでは通用しなかった事でしょう。

 やはり、他の無関心層から嫌われないように立ち回らねばなりません。

 彼女らとの戦いとは陣取り合戦であり、出会った瞬間から既に始まっているのです。

 対処と言うより予防の話になるので、もう深みにはまってしまった人には参考にならないかも知れませんが……。

 

 次回はもう少し黒い話。

 義姉のような人達を黙認する事……第三者が中立中庸である事は正義なのかを考える予定です。

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