E社 私が指示を出す側になって

 先日、現職にて、私と同じくらいの時期に入社したらしい方・サワさん(仮名)に指示を出しながら仕事をする機会がありました。

 実の所この方、部署のボスに何かと怒られながら仕事をしていたので気にはなっていました。

 

 すぐに「妙な質問が多い」事に気付きました。

 例えば、ある資材を運ぶために動線を確保したい時に「ここの箱をあの場所に移して良いですか?」と言うような、結論から少し離れた質問や、

 ある重量物を「低い位置にあると不都合ですか?」と唐突に訊いてきたり。

 これに関しては私の腰が弱い事を聞いていての気遣いをしてくれたようなので、大変ありがたい事なのですが、理解するのにかなりの根気を要しました。

 恐らくですが、これらの訊き方は、A社での私がリーダーらにしていたものと似ていると思います。

 相手がどう出るか、何にキレるかわからないので必要以上に予防線を張らざるを得ず、結果、要領を得ない質問になってしまう。

 前職や家庭でそのような扱いを受けているのか否か。私の立場的に知る由も無ければ勘繰ることでもありません。

 とにかく、この方がどこか他人に委縮しながら接している事は念頭に入れねばなりません。

 それともう一つ、結構、仕事の覚え漏らしが多いようです。

 これもA社での私に共通しているからこそ、すぐわかりました。

 正直な所、部署のボス(直属上司とは別の人です)も大概昔堅気の所があり、気分次第で「当たり前でしょ!」「一度教えたでしょ!」

 と平気で口走る事があります。

 特にサワさんのような人にそれをやってしまうと委縮してしまい、何も訊いてこなくなるリスクが非常に高い。

 結果、わからないまま勝手に進められて、ミスの原因になってしまう。

 実際にこの時、私がサワさんに任せたある作業が見事に間違っており、明らかに疑問を消化しなかった為に起きたミスでした。

 それに対してボスは、

「あの人、ちょっと変わってるからねぇ」

 と言いますが、多分に貴方にも責任はありますよと思いました。

 私はA社のリーダー達と言う「信用出来ない人間のお手本」を知っているので、逆説的にこのボスやE社の人達を信用して臆さず質問しまくれるのですが、世の中それで割り切れる人ばかりでもない。

 仕事の終盤にとある作業を任せた所、どう頑張っても出来なかったようなので、その場は私が肩代わりしました。

 正直言って、何故出来ないのか、今のところ全く理解できません。

 けれど、私自身がそこを分析出来ていないのに、無理に解決しようと踏み込むのは得策ではないと判断。

 それよりも潰せる問題から順に潰して行き、問題の数を減らして行った方が良い。

 

 恐らくこの方は、セオリーさえ確立すれば誰より真面目だと思います。つまり、致命的なミスをしない人材になってくれる可能性が高い。

 失敗を恐れる性格は、裏を返せば慎重さの表れでもあるからです。

 その為に、この方に対しては(安全上の事を除いては)プレッシャーをかけてはならない。

 A社での後輩・ナガ君の時と同じく「今さら訊けない事を訊ける逃げ道」となる事が、目下私の役割だと思います。

 余談ですが、A社で私がナガ君に怒鳴り付けたのは二回。

 いずれも、彼自身の身の安全を脅かすような横着をしていた為、ショックを与えてでも止めさせなければならないと判断したからです。

 一方、そのナガ君があわや死亡事故を起こしかけたのは、タケさんと二人きりの状況でした。

 大声を出すのは、人命に関わる時に限定した方が良いと私は思います。

 普段キレてばかりの人間の言うことは、大事な時に聞かれません。

 

 確かに私自身、まだまだ自分の事で手一杯な所に、このサワさんに指示を出すのはきついものがありました。

 やはり手間取った責任は全部私にかかり、ボスには色々と小言ももらいました。

 これが長い付き合いとなると、腹を立てる事もあるかも知れません。

 けれど、序盤に少し手をかけてでも覚え漏らしを消化してもらった方が、長い目で見ても楽でしょう。

 重度のパワハラ上司は、その精神構造上、長期スパンでものを考えられないと聞きました。

 だから短期で無謀な成果を求め、それを部下や後輩に転嫁する。

 自分が相手の成長を阻害しておきながら、その結果、相手が思いどおりに動かないとイラつく。

 その話を聞くと色々とA社での事が腑に落ちましたし、自分が指示を出す時に反面教師として役に立ちそうです。

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