2.5社目 職業訓練の企業体験

 2社目を辞めてA社に入る前のおよそ半年間、職業訓練を受けていた事に軽く触れていたと思います。

 受けている訓練の分野や施設にもよるのですが、訓練の最後1ヶ月、実地での職場体験を行うケースもあります。

 訓練校から受け入れ企業の候補が複数提示され、一ヶ所を選んでお世話になるシステムでした。

 グーグルマップで会社の外観を見る以外に判断材料もなく、私は単純に最も自宅から近い会社を選択。

 私のこういう選択のしかたが、これまでどういう事態を招いてきたか……お察しの通りです。

 

 とりあえず「ある建設関係の職種」とだけ先に説明しておきます。

 割りと最近、独立したらしく、社員は無し。所謂一人親方と言うスタンスでした。

 A社を先に紹介した今、正直、読み物のネタとしても見劣りしそうなので、実際の発言などをささっとお送りします。

 

 まず基本ですが「自分の意図は間違いなく伝わって当然」「誤解や無理解は全て相手のせい」と言う考えです。

 代表的なものを挙げるとすれば、

 腕を回して見せて(ケーブルを巻けという指示)すぐに理解できないと、ブチキレ。

 これが日常茶飯事でした。

 少しでも手間取るとその仕事を奪われ、端に追いやられるので何も身に付く筈はありません。

 実技テストの練習で、仕事Aについての配線を考えさせながら仕事Bの問題を解かせる。

 曰く「複数の仕事を同時にやれて当たり前」らしいですが、親方が実践なさっていたかはわかりません。

 末期には私の親の事を「使えないから転職歴があるのだろう」と言いますが、一方で「俺は別の業界でも色々やってきたが引っ張りだこだった」と陳述。

 私に対して「お前、特殊学級の出だろ!」と面罵→「昨日○○社の人がお前の事を、あいつ特殊学級ですか? と訊いてきたわ。みんなからそう思われてるって事だ」(恐らく嘘。複数の人間の間で特殊学級と言う言い回しが、申し合わせたわけでもないのに被る可能性は、そう考えられない。この手合いは持論を支持する為なら息をするように嘘を吐きます) 

 私の友人で最も頭の良いと思う者の学歴を教えろ、などと訊かれたのですが「○○大学! 六 大 学 も行かずに頭良いとかぬかしてんの? 類友だなおい!」

 ちなみに、親方本人は高卒です。

 当たり前ですが私は中卒や高卒についても否定はしません。選んだ会社が良い所なら、あるいは策があって独立するなら、それだけ早くキャリアを積めるわけですし。

 けれどこの場合、親方は自分の投げたブーメランが壮絶に頭に刺さっていることにすら気づいていません。道化を通り越して、もはや異形の何かです。

 あと、間違っても「よほど野球が好きなんですね、プッ」などと正論を言ってはなりません。

 この手合いは本当の事を突かれると、あの病的な逆上を引き起こして、最悪暴力沙汰になりかねないからです。

 あと面白かった言葉と言えば「同窓会で、金持ちと貧乏人の格差がはっきりする。スーツの値段が似たやつ同士固まって二次会とか行くもんだから」

 くらいでしょうか。

 あとは「いつも嫁の弁当捨ててたのを酒に酔ってばらしちゃった(笑)それから作ってもらえん」「娘が俺の下ネタに対して叩いてきたから本気で顔を張り倒した」「家族で出かける時、娘は俺と同じ車で行動したくないと抜かす」

「うちで人雇ったら、月給15万で使う。勉強させてやってんだし、辛うじて食ってけるくらいがちょうど良い」

 前回の福岡児童餓死事件の話題でも触れましたが、この人の人生、空虚です。

 一般的な家族愛や友情だけが正解とは言わない。

 しかしこの手合いはそれらを正解だとしながらも、実際にはこんな言動を取ってのける。そうした幸福を求めるくせに、そうした幸福が逃げていって当然な振る舞いをする。

 誰からも需要の無い父親像、夫像、上司像を一方的に押し付け、近親者すらも離れていく。

 拒絶されている事もろくに理解できない、

 立場の格差で相手を押さえ付けているフィールドで持論を展開するから誰にも否定はされない。けれど、内心で共感も得られていない。

 一生、何も知らないまま、最後は孤独死か限りなくそれに近い状態になる事でしょう。

 

 最終的なエピソード。

 高所にいる親方が五メートルほどのビニールパイプを、地上の私に下ろしてきて、下端を持たせました。

「離すぞ」

 と突然言われ、咄嗟に対応できなかった私はパイプを倒してしまい、駐車していた営業車に接触。

 梯子から降り様に蹴りをブチ込まれ、訓練校へ訓練の中止を勧告。

 私はこれで訓練校を退所となったのですが、このときにA社の面接を斡旋されて、結果的に再就職が叶いました。

 暴行罪で警察に駆け込んでも良かったのですが、自宅の住所を知られているので、冗談抜きで火をつけられかねないと思い、止めておきました。

 余談ですが、訓練校はろくに裏も取らずに親方様の言い分を全面的に信じ、研修が終わったとき、戻ってきた同期の人達に、講師が「約一名、居なくなってる人がいますが(笑)」と言っていたそうです。

 

 この企業研修で接触した個体と言い、1社目で四人ばかり辞めさせた個体と言い、私に対して、

「どうせお前みたいなやつは結婚も出来ない」

「最後は孤独に野垂れ死にだ」

 と全てを知っているかのような言い方を決まってしました。

 まあ、彼等のような人種を相手にするための仮面では、およそ結婚など程遠いように見えるのは仕方がないのでしょうけれど。

 そう言う仮面をかぶらざるを得ない所へ追い込んでおいて、その仮面を揶揄するのだから、これもまた滑稽な事です。

 これまで何度も述べてきたように、私は最終的に結婚しました。彼らの言い分は外れたわけですが、この場合、何かペナルティは無いのでしょうか。

 無いから、無制限に言葉を撒き散らすのでしょう。

 彼らが好き好んで使う「責任」だのと言う言葉は、彼ら自身には適用されないようです。

 それはそうと、真に興味深いのは、A社のタケさんはむしろこれらの個体とは反対の言動を見せていたと言うことです。

 彼はどちらかと言えば私が結婚したのは当然の事であり、そのために家庭が出来てより必死になり、自分の手足に足る戦力となると、決めつけていた節があります。

 意外なことに、タケさんの場合はこれらの個体のような極めて下品な言葉は吐かないのです。

 それが単に、他の個体よりも狡猾なだけだからか。

 それとも、NPDにありがちな同一視の範疇なのか。

 紋切り型の無個性に見えて、微妙に個体差があるのか。

 まあ、答えは永久に得られないでしょうけれど

 

 どうして自分ばかりがこんな人種を掴まされるのだろう……とずっと思っていましたが、NPDの人口比を見るに、こう言う手合いは何処に居ても不思議では無いようです。

 よって、私と同じようなババばかり引かされている人は、不運と嘆く必要は無いようです。

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