耐えても誰にも良い事は無い

 今の生活を守るためには堪えないといけない。だからこそ、パワハラ被害に曝されながらも辞められず、不合理・不条理の中で仕事を続けざるを得ない。

 当然です。仕事が辛いからと、その度に投げ出せるような人が居たら、たちまち失業コースです。

 そして私は、その“正論”のもとに耐え続けた結果、潰れました。

 どんな正論も過剰になれば暴論に変化する。ブラック職場ではこれに尽きます。

 精神力とは脳の耐久度です。

 負荷が続けばいつか必ず壊れます。

 自分次第でそのダメージを防げると思いますか? 私も復職後はそう考えていました。

 ブラック上司の攻撃をうまくかわして防衛しよう、と。

 しかし、こちらが守りを固めれば“対策”をうち、確実にこちらの脳を破壊しにかかるのが敵と言うものです。

 事実、辞める直前には食欲不振、吐き気などの体調不良が復活し、起きる必要のある時以外は寝床に釘付けでした。ほぼ、休職前に逆戻りしていたと思います。

 間違ってはいけません。相手は一般論を武器にしているようでも、能動的な殺人者です。

 ここまではいつも通りの文句。つまり前置きです。

 

 耐えると言うのは、自分や家族は元より、後輩にとっても……ともすればブラック上司にとってすら為にならない事だと思います。

 どれだけ耐えた所で、ブラック上司は決して満足する事はありません。パワハラを止めれば、ストレスの捌け口が無くなるからです。

 パワハラとはいわば麻薬であり、パワハラ加害者とは麻薬中毒者です。

 これは揶揄とかではなく、本当に、その本質は依存症と同じではないかと思います。

 パワハラ被害者は、まず抵抗できない人間が選ばれます。

 それは立場の格差であったり、付け入りやすい性格だったり……理由は様々でしょうけど、そう言う人間はどれだけ痛め付けても反撃してきません。

 こうした人達は「法的に制裁を受けない」とわかると、何でもします。罰を受けない罪は、罪ではないと言う倫理観からです。

 そしてそれを会社のため、世の中の常識、という普遍的なオブラートに包み込んで見て見ぬふりをします。

 個人的な考えですが、殺人者と言うのはまず自分の中で「殺しても良い理由」を作るのでは無いかと思います。

「殺人は駄目だけど、自分の場合は相手がこれだけ憎いから良いだろう」「自分の場合は金が要るから良いだろう」「自分の時は別」「相手は駄目だけど自分は良い」

 そして麻薬と同じで、パワハラは回数を重ねるごとに、犯人に“耐性”がつくものです。この耐性には、被害者がある程度うまく立ち回れるようになる事での、パワハラの不発も含まれる事でしょう。

 被害者が耐えれば耐えるほど、犯人はパワハラの内容をエスカレート「させなければならない」構造をしています。

 被害者が首を吊るまで、加害者はそんな事にも気付きません。自分で目を塞いでいるのだから。

 ラリって弛緩した顔でわめき散らし涎もダラダラ垂らしながら人を殺傷するジャンキー。貴方がいつも相手にしている人間の、分別ぶった顔の下にある本性です。

 間違えないで下さい。「嫌なやつ」だとか「性格が悪い」だとか「性根が腐っている自己中」だとか、敵はそんな低レベルな存在ではないのです。

 貴方を痛め付ければ痛め付けるほど、ブラック上司はレベルアップして更に理不尽の化身として成長していく。

 その被害は貴方のみならず、貴方の後輩や同僚にまで及びます。

 正直なところ、後輩のナガ君をA社に置いてきたのは今でも心配です。

 重ねて言いますが、パワハラは麻薬です。パワハラ犯は中毒者、依存症、ジャンキーです。

 “私と言う名の麻薬”の供給源を失ったジャンキー二名が、次はどこから調達しようとするか。

 しかも、私をやっつけて格段にレベルアップを果たしたモンスターでもあります。ナガ君や、他の同僚達は、今後私よりも苛烈なハラスメントを受ける事でしょう。

 あるいは、一見して寡黙だけど若干気の強かったマサさん辺りとでも、殴り合いにでもなるか。

 いずれにせよ、私が奴らを増長……言い換えれば“成長”させたせいです。

 自分の為にも仲間の為にも、パワハラ被害者はもっと早くに動く必要があります。

 これは当然の権利であり、そしてともすれば火種の一端となってしまっている者の義務ですらあるかも知れません。

 A社の(新)部長は、私がパワハラによって潰れ、退職を余儀なくされた事で謝罪して来ました。

 けれど、詫びなければならない事とわかっていながら、結局、私の最終日まで元凶を改善しようとしませんでした。

 恐らく欺瞞でも悪意でも怠慢でもありません。

 本当に、リーダーらを罰したり律したりする必要性を見いだせていない。意識の網にすら引っ掛かっていなかったのだと思います。

 せめて私が部長にもっと強く訴え、仲間達の保護を嘆願すれば違ったのでしょうか。

 しかし、そうなれば、その事で騒ぎになるのは明白です。

 私は、根が気弱なダイさんはともかく、共感性欠落型潜在犯(今、名付けました)のタケさんは、本当に私の子供を狙うかも知れないと考えています。

 有給消化の際に脅されたように、新たな職場に悪評をまかれるかもしれない。

 私は、仲間よりも自分の保身を選びました。

 殺される、と感じた時にはもう、ある意味でも手遅れなのです。

 

 ある程度の我慢は、確かに必要です。

 しかし、耐え続ける事は、決して状況の改善には繋がりません。

 私のせいで、ナガ君は死ぬかもしれない。

 今でも、その考えが頭から離れません。

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