パワハラで失ったもの

 E社に転職してから、はや一ヶ月。

 先日、某カレーチェーン店の大盛カツカレーを余裕で完食出来た事に自分で驚きました。しかもその後、メロンパンでコーヒータイムです。

 A社に居た時は並盛ですら一杯一杯だった事を考えると、やはり加齢ではなく精神的な要因だったのでしょう。

 食欲は、まさしく健康の指標と言えます。

 

 さて、私が前の会社で失ったものは、もちろん食欲ばかりではありません。

 それよりももっと大事なものを失った・危うく失いかけました。

 そしてそれは、ブラック職場に居た時には省みる余裕すら無いものです。

 今、貴方が何を失おうとして居るのか、私の実例を挙げて紹介して行きましょう。

 

 まずは今もなお、取り戻せていないものから。

 

●新婚時代の思い出

 結婚前後の時期は、まだタケさんの指導も、ギリギリ人道的な範囲にありました。

 新婚旅行までは、まだ真っ当に満喫させて頂いたと思います。

 しかし、休日すら心が休まらない状況は次第に私を追い詰め“離人症”という精神疾患までを誘発しました。

 これは本文でちらっと触れましたが「今、自分がそこに在る実感が希薄になる・もしくは無くなる」病気です。

 仕事や行動の判断は問題なく出来ます。

 けれど、そこに実感が伴わなくなる。

 せっかく夫婦で遊びに出掛けても、その楽しみが実感出来ない。

 子供はもちろん宝ですが、子供が生まれる事は“夫婦二人きり”の時代の終わりも意味します。

 夫婦二人での思い出は、もう二度と積み重ねる機会はありません。

 

●攻撃性が強くなった

 これは、一長一短ですが、家族や友人にとってはひとつも良い事では無いでしょう。

 前より「相手に強く出られた時」の堪え性が無くなりました。

 正確には怒りによる攻撃性、と言うよりも、恐怖から来る防衛意識が過剰になったと言うべきでしょうか。

 パワハラ上司は、オドオドした態度の人間を好んで攻撃します。

 また、そう言う人間が居ないなら、そう言う仮面を被らざるを得ない所に被害者を追い込みます。

 弱いから攻撃される。

 身内はそんなことする筈がない、と理屈でわかっている筈なのに、時には防御本能が先に働いてしまうのです。

 こうなるともはや、アレルギーです。

 現職でも、高圧的な人や大声を出す人は居ます。

 そう言う人達の事をろくに知らないうちから猜疑心を持ってしまうあたりは今でも治りきっていない部分だと思います。

 

●別部署の人達の信用

 これに関しては別項「同罪の傍観者」で詳しくやりましたが、基本的には他人(加害者であるブラック上司)の意見に乗っかって自分で考えない人達にも問題があります。

 そんな人達に無条件で嫌われた所で、マイナスはないとも思います。

 けれど、その人達と実りある関係を築けたかも知れない、と言うプラスの機会は損失しています。

 結果論から「こんな人達はレベルが低いから端からわかり合えなくて正解」と言い切れるほど、私は完璧ではありません。

 また単純に、そう言う傍観者の援護射撃は結構メンタルに響いていたと、後になってわかりました。


●無駄に費やした時間

 業務に関係の無い「俺を納得させるまで帰るな」と言う類の引き留めの事です。

 毎日1~2時間のロスと考えると……日数を掛け算はしたくなくなります。

 

●小説が書けなくなった

 これは、当エッセイの執筆も含めてリハビリ中です。少しずつ治ってきてはいますが、まだまだ長編を書けるところにまで回復していません。

 新しい仕事が忙しいのもあるにはありますが……。


 


 ここから先は、どうにか今は取り戻せたものを挙げます。

 しかし、確かに失っていたものです。

 私が取り戻せたのは運が良かっただけだと、理解してください。

 

●自信

 自分は無能で、転職した所で何も出来ない。

 そう思わせる事でブラック上司に繋ぎ止められていたのでしょうけど、これが続くと、本当に人材として死にます。

 たまたま専門学校で基礎を学んでいたアドバンテージから、私がプレゼンを行った時の会社からの評価が高かったのですが、(あと、プレゼンって小説書きの経験が活きる仕事でもあります)

 タケさんは、私を追い詰め出してからその実績を否定にかかってきました。

 曰く「上も皆も誉めてたが、チームリーダーだったスイさんの意図と外れる事を言っていた」との事で。

 それも、かつてはそれを評価してくれたその口で、です。

 あとは言わずもがな、日常的に閉鎖空間で一挙一動のほぼ全てを否定されていれば、理屈の上で「おかしい」とわかっていても、自信を刈り取られます。

 何故なら、その全否定の中には時折事実も含まれるから。

 虚実おりまぜて、嘘も本当もごちゃまぜにするのが、パワハラ上司の洗脳法です。

 自信を奪われた人間は、転職もさることながら現職でも何も出来なくなります。

 自信(言い換えれば成功体験)とは、仕事を迅速かつ正確にこなすためのショートカット機能でもあるからです。

 そんな足手まとい(上司としてのストレスの種)を自分から作り出して何がしたいのか、理解に苦しみます。


●命、健康

 メンタルヘルスや、精神的プレッシャーによる事故の誘発については散々語ったので言うまでもなく、病院に行くことを妨害されるのも致命的です。

 本文で少し触れましたが、私が一度眩暈で病院に行った時に、翌日更衣室にて大声で怒鳴られました。

 たまたま大事に至る病では無かったから良かったものの、これが脳梗塞のような重いものだとしたら?

 また怒鳴られるから病院に行かないでおこう、と判断した時に、命に関わる病で無い保証は?

 それと、新型コロナウイルスも喧しいご時世にも関わらず、子供から感染性胃腸炎を貰って休んだことも仮病扱いです。風邪で声がガラガラの状態でも、仕事をさせられました。新型コロナに罹患しても同様かも知れません。

 こんな会社が世の中のあちこちにあれば、ウイルスの封じ込めも出来ない道理です。もはや非国民です。

 そして現職でも、病欠に躊躇してしまいます。

 胸の違和感と言う、割りと緊急性の高い症状を、上司に指摘・病欠を勧められるまで放置しようとしてしまいました。

 

●家族、友人

 大切な家族が心を壊したら、大抵の人は支えようと思うでしょう。

 しかし、もしもそれが長期、かつ、重い精神疾患に発展したら?

 心の病は本人だけでなく、近しい人間にも重い負担をかけ、やがて蝕んで行きます。

 私は早期に適応障害を発見し、それが重度に悪化する前に治療出来ました。

 しかし、もしも、もっと悪化していたら……そう思うとぞっとします。

 まして自分の収入が家計のメインだとするなら、なおの事、将来に悲観もします。

 晩年まで添い遂げた夫婦が、老々介護の疲れから相手を殺してしまう。お互いを思いやるからこそ、お互いの心を壊してしまう事だってあります。

 心の病は、思いだけではどうにもなりません。

 医学的措置が必要な事なのです。

 また、もしもこのままA社で勤め続け、子供が大きくなるまで運良く生き延びたとして。

 暇さえあれば寝床で横になっている親を見て、子供は何を思い、どう育つでしょう?

 休日、子供と遊んでやる体力すら枯渇して、安月給で細々食い繋ぐ事に何の意味があるかと。

 

 

 

 いかがでしょうか?

 もしもブラック職場からまだ抜け出せていない方がいらっしゃるなら。

 これが今、貴方が失いつつあるものです。

 私が幾度と無く「パワハラは人殺し」と剣呑な言葉で糾弾してきた意味がおわかりでしょうか?

 貴方は今、間違いなく殺されかけています。

 こう言う事にさえ想像が及ばなくなった、無自覚な殺人鬼。それが、貴方が毎日のように接している相手です。

 その事実を重く受け止め、自分の身をしっかり守って頂きたい。

 

 以前、パワハラで得たもの、と言う別の話を書きました。

 まずはそれを振り返って、脱出のエネルギーを蓄えて下さい。

 次に本項で失うものを知って、敵を見据えてください。

 

 

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