脱出のために実践できる事
周りの理解が明暗を分ける
ありきたりな話になりますが、家族をはじめとした周囲の支えは、心の闘病において最も大事な後ろ盾になります。
本文をある程度以上読んで下さった方なら察しがついていると思いますが、今回の事を乗り切れたのは妻のお陰による所が大きいです。
彼女が居なければ、私は今頃、ここでこんな風に文章を書くことは出来ていなかったことでしょう。
夫である私を潰したくない、と言う思いは勿論あったのでしょうが、彼女自身がメンタルの病気に正しい知識と理解があった事が良かったのだと思います。
「怪我や大病じゃあるまいし、それで休んで私とお腹の子はどうするの!?」などと言う人が妻だったら、きっと私は終わっていたでしょう。
それでなくても「うつ病……どれくらいのダメージかよくわからない」程度の迷いでも、危うい所だったと思います。
(実際、私の父がそういう人間でした。今まで大変だっただろうが、子供が生まれれば踏ん張れるはずだ! と激励していたつもりなのでしょうが……それはかえって相手を追い詰めます)
よく「うつは心の風邪」と言います。人間の思考と言う
ただ「風邪」と言うのはまだまだ生ぬるい表現です。「心のインフルエンザ」もしくは「心の肺炎」くらいには思っておくのが良いでしょう。これらは処置を怠れば簡単に人死にを出しますよね。
上司に休職を宣言した際の顛末を読んで頂ければわかると思いますが、この国では依然、メンタルヘルスに対する啓蒙が不足しています。
比較的部下に理解のあったセキさんですら「精神病者のレッテルを貼られては終わり」「落伍者になる」という認識でした。
私を潰した原因のタケさんが、同じような……と言うかむしろ、休職前よりも苛烈に私を叩いていたのも、悪意と言うよりは無知から来るものだったのでしょう。
一度頭を叩いて脳挫傷を負わせてしまった相手を、復帰した後もグーで思い切りぶん殴り続ける。
そういう事を自覚なしに出来たのも「心のダメージで人は死なない」とどこかで決めつけているからでしょう。
A社の社長は、恐らくそこの知識をきちんと持っている人でした。
けれど、いくらトップに知識があろうと(旧)部長のように「会社の中枢を担っており、それが無知」だった場合、無意味です。
会社と言うのは、人材と言う複数の部位からなる一つの生き物のようなもので、出来の悪い部位もひっくるめて使わなければならない。
社長(心臓)個人が手足のように動かせるわけではないのです。
取り留めも無い話になりましたが、まとめます。
精神的に潰れた時、その家族や友人と言った周囲の理解は、大袈裟ではなく「生死を分けます」
私もそうでしたが「頑張らなければ」と視野狭窄に陥っている人間は、自分からギブアップする事も知りません。後押しは勿論、事によっては力づくで引きずりおろすくらいの覚悟は要ります。
繰り返します。
うつは「心の肺炎」です。
処置が遅れれば死ぬ状態です。
いや、“心”と言う実体の薄い表現がいけないのかも知れない。「脳の肺炎」と言うべきか。
そして人を精神的に追い込むと言う事は「その人の脳を鈍器や刃物で傷付けている」事と同じです。
仕事への熱意だの、仲間への思いだの。どんな綺麗な言葉でそれを行ったところで、それは「人殺しの所業」です。
それでも自分の正義を貫くのであれば、起きた結果には必ず責任を持つように。
いや、必ず責任を持たされます。
私がタケさんに対して刑事告発をしなかった事、彼らを名指しした遺書が表に出なかったことは、ただの幸運に過ぎません。
私の元リーダーたちのように、自分がそうして告発されるかも知れないと気付かないまま、他人を虐げている人は相当数居るのではないでしょうか。
余談。
私の息子は難産の末に誕生しました。
その影響でいくらか弱った状態になっており、新生児集中治療室(NICU)での治療から人生がスタートしました。
一ヶ月ほどは、親である私達ですら触れる事も出来ませんでした。
初めて彼を抱き上げる瞬間は遅れたのですが、その時が来た時。
その時は未だわだかまっていた心の淀みのようなものが、不思議と晴れるのを感じました。
正直なところ、父親と言うのは、子供が自分のお腹に居たわけではないので、そういう感覚が母親より鈍いとは思います。
けれどこの時、私は確かに息子に救われたのです。
これがなければ、二ヶ月程度の休職ではあそこまでの回復は無かったかも知れません。
「息子を何が何でも守る!」と気張っていたわけではありません。
ただごく普通の事として、生きていくために毎日の食事をするのと同じくらいの普遍性で、
「息子をちゃんと育てる為に、ちゃんとした仕事に移ろう」
と自然に思えたのかも知れません。
ありきたりな事です。
それでも、大事な事なのだと、自分の身に降り掛かって理解できました。
近しい人が心を、脳を傷害されたとしたら、その命運は側に居る人が握っている事を、沢山の方に知っていただきたい。
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