転職の内定・私の幸運・上司の反応

 こうして私は、転職の内定を頂くに至りました。

 前述した通り、これに関しては多くの幸運が絡んだ結果とも考えます。

 

 ・二交代制の仕事で平日に動きやすかった

 ・コロナ禍の最中で競争率が落ちていた

 ・現職E社は過去に経験のある業種、職務内容だった

 ・E社の仕事はたまたま自分のとある趣味(ボランティア活動)にも合致していた=志望動機のアピールもしやすかった

 ・E社はコロナ禍の影響を切り抜けやすい業種であり、事業拡大の為に社員を必要としていた

 ・転職を決意した時期にE社の求人があった事(それも半月くらい経っていたのに他の応募者が現れていなかった)

 

 結局は運と経歴、と言ってしまうと、私と同じ境遇の方から「ふざけるな」と言われそうですが……。

 事実私は、漠然と「仕事辞めたい」と言う語句で検索していた折に「結局運とか、新卒時から積み重ねたキャリアが全てってことじゃないか」と半ば投げ槍になっていました。

 しかし、結局のところ「そうだ」と言わざるを得ません。

 宝くじで億万長者となるには運が必要。しかし、宝くじを買わなければ可能性はゼロである。

 これは綺麗事でも精神論でもない。

 運を自分で引き寄せようと足掻く事が、突破口を開くための“最低限の必須項目”です。

 私の前職のような夜勤も無く、コロナ時代に使えそうな経歴も無い方も居られる事でしょう。

 けれど、自分の持ち札を今一度確認してみて欲しい。逆に、私には持っていない切り札が貴方にはあるかも知れません。

 そしてそれは、求人票を見て初めて気付ける事もあります。

 

 E社の面接に際して、私は特別な事は何もしていません。

 強いて言えば、面接の前にE社の製品を手に取って使用した事くらいです。これに関しては面接時にさり気無くアピールして、あまりしつこくは言いませんでしたし、先方の反応も薄めでした。

 これと言って特別意気込みを見せたわけでもなく、淡々と自分の経歴を説明し、訊かれたことには正直に答えました。

 最後に質問があるかと訊かれても、無理にひねり出していません。先に職場見学があったので、そこで質問は全て済ませてあったのもあります。

 一つだけ気を付けた事と言えば、前職を辞めた理由を説明する時の態度です。

 これ幸いと前職の悪口を喧伝するような人を、私が人事担当者なら雇いたいとは思いません。

 転職活動の末にここに来たと言う事は、現職で何らかの事情があった。それは、先方も察している事だと思います。

 悪口を一切言うな、とは言いません。会社によっては、それを聞いて参考にしたい所もあるかも知れないからです。

 ただ、その確証を得られるまでは、悪口なんて言わないに越したことはありません。

 これも後述に回しますが「一見して異なる業種でも、どこで誰が繋がっているかわかりません」し。

 

 

 

 内定の電話を頂いたその日は、夜勤でした。

 出社して一番に、セキ係長に報告しました。

 辞める、と言うだけでなく、もう次の内定が出ている事も。

 それでも「考え直す気は?」と訊かれたくらいです。ここはきっぱり、A社との縁を断ち切る所でしょう。

 その後、セキさんを通して、異動して新しく部長についたばかりの上司(新部長)と総務部長に連絡がいきました。

「引き留めようと色々考えたけど、次が決まってるならもうどうしようもないね」

 社会通念上、上司と言うものは退職の意向を見せた部下を慰留するものです。

 それでなくても、A社の人手不足は深刻なものがありました。休職歴があり、リーダーに怒られてばかりだった私でも、抜ければかなりのダメージとなります。

 そういう意味でも、次の仕事を決めてから現職を辞めると言うのは、理想的な形だと思います。

 結局、前回のトピックで色々理由を連ねたように、それがなかなか出来ないから、皆苦労するのですが……。

 

 新部長に呼び出された所を、リーダー二人に目撃されました。

 もう、最初から薄々察していたのでしょう。

「新部長と何を話していた?」

 タケさんに訊かれました。

「世間一般のマナーとして、私の独断で話せない事です」

「それは大きい会社での論理だろう。俺はともかく、ダイさんにも仲間の誰にも話さないのは、心が無いのでは」

 引き下がる気は全くないようです。これで、ある意味で言質は取れました。

 後で喋った事を部長らに咎められても、これはもはやタケさんの責任だと判断。

 全てを話しました。

「……やりたい事が出来て辞めると言うのなら、良い事だと思う。

 もしかしたら、俺が眼鏡とかを買わせた不満もあったかと思ったが。

 けれど辞めるその日まで、今の仕事は責任を持って、全力でやれ。その日まで、俺はあんたを今まで以上に厳しく見るからな」

 色々と、事の本質が見えていないようでした。

 けれど私は黙って首を縦に振るだけでした。

 ここで書いたような情報を、何一つ、彼には与えるつもりはありませんでした。

 これは、誰かに教えられる事ではない。

 彼自身が、自分の行いの危険性に気付き、職場の人材を損なうような事にしかならないと自覚を持つ事。

 自分で気づかなければ意味が無い。だから、私は彼に答えを一切提供しない。

 タケさんが、仕事に際して私にずっと言い続けて来た事でした。

 

 新部長には、リーダー達との今までの経緯の一部と「辞める理由は前回の休職と同じ」と言う事は伝えました。

「気付いてあげられなくて、申し訳なかった。そこは謝罪します」

 部署に来て日が浅い新部長が、そこまで気に病む必要は無いと思います。

 けれど、先に述べたタケさんの言葉通り、新部長にこの告白をした後も、退職当日まで私の扱いが変わる事はありませんでした。

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