嘘つきのレッテル
リーダー二人が、それまで私に浴びせた言葉をまとめると、私と言う人間は息をするように仮病を使い、嘘を吐き、他人に対する配慮が欠片も無い極悪人だと言う事になります。
自分で言う事かはわかりませんが、私は常に正直に生きてきました。
それは清く正しく生きよう、と言う綺麗事からではありません。
大抵の場合、嘘で得られるメリットよりバレた時に失うものの方が多いからです。
つまるところ私は(と言うか大半の方は?)余計なリスクを負わない為に、嘘を吐かないわけです。
しかし、もしも「正直に振舞っているにも関わらず、嘘つきのデメリットをいつも負わされる」としたらどうでしょう?
「本物の嘘つきになってやろうか」
そう考えた事も、正直なところ一度や二度ではありませんでした。
例えば仮病を使って休む事により、その日の家事を進める事が出来ます。これによって私も妻もゆとりを持って夜を迎える事が出来ます。
どうせ嘘つき呼ばわりされるのなら。
下の者にそう思わせてしまう職場で、果たして当たり前の秩序は保たれるのでしょうか。
実際、同僚や先輩の一部には、私から見ても「頻繁に休みを取ってるなぁ」と感じる人はいました。
けれど有給休暇とは労働者に与えられた権利であり、会社には与える義務があります。
まして同僚や上司個人が、他人の休暇に首を突っ込む権利はありません。
勿論、著しく業務を停滞させるような休み方は……とも思いますが。
ただ。
休みばかり取っている、といつも陰口を叩かれていたあの先輩は、何を思っていたのだろう。そんな干渉が無かったとしたら、今頃、休みを取る頻度は違っていたのではないか。そう考えます。
前置きが長くなりました。
最後の一年、リーダー二人からよく言われるようになったのが「嘘つき」「真面目にやっていない」と言う言葉でした。
案外、精神的に最も堪えたのがこれらの言葉だったかも知れません。
口伝で報連相を行う以上、時には勘違いで間違った事を伝える事もあります。他ならぬリーダー二人が、そうしたミスをそれなりに犯している筈です。
また、一挙一動・一挙手一投足において揚げ足に揚げ足を取られ、釈明を求められるような状況で、全てに対してまともに取り合っていては再び潰れる……と言うか、物理的にも不可能であります。
どうしても、無為な詰問に対しては上辺を塗り固めた釈明が混ざる事もあります。
(もっとも、本人らにとって全ての詰問は有意義であり、無為であると言う事自体が口答え・反抗・責任転嫁なのでしょうけれど)
ある日、ダイさんに言われました。
「お前はスピード違反と信号無視をしている。マサ(仮名・私の同僚)が目撃した」
確かに、マサさんとは通勤ルートが似通っていて、お互いの車を見かける事はよくありました。
しかし誓って言いますが、私は交通ルールを順守した上で通勤していました。
当然、それはダイさんにも説明しました。
返ってきた言葉は……まあ、ここまで読んで下さった方であれば、およそ予想はつくと思いますが、
「お前は守っているつもりでも、気付かないうちに違反していたんだろう。絶対に、一度もやっていないと、言い切れるか?」
という物でした。
道理が無い。
潔白の為の反論すら、まともに通じない。
恐ろしくなりました。相手はもう、言葉の通じる人間だとは思えなくなってきました。
興奮状態の熊に襲われたとして、言葉で説得しても意味がない。それと同種の恐怖感です。
A社の更衣室のロッカーには、鍵がついていません。
もしも誰かが、私のロッカーに財布などの貴重品を忍ばせたとしたら?
普通ならパラノイアと思われても仕方のない所まで、同じ会社の仲間を疑わねばならなくなっていました。
余談ですが。
マサさんに関しては、その一件を除いては、良好な関係だったと思います。
だからなおの事、ショックは大きかったのですが……。
常にリーダーのどちらかから叱責を受けている私の姿は、通りすがりの同僚や他部署の人達の目にも映っています。
悪気はないけど、どこかで「あいつは問題がある」「やられ役」と言うバイアスがかかってしまっていたのではないでしょうか。
確かにダイさんとは元々折り合いが良くなかったし、タケさんの期待にも沿えていなかった。
けれど、休職前にはこんな事は一切ありませんでした。
ここまで扱いがひどくなったのは明らかに、復職後からでした。
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