第9話 本当に世界はあったのか

トモエの帰国日を迎えた。


暑過ぎて耐えられないほどの暑さでもないが暑過ぎるという理由で、マサキは喫茶店に向かった



-はずだった。


眩しくて目が開けられなくても、目を瞑ってでも行けるそれくらい慣れた道にも関わらず、喫茶店がない。


それどころか潮風の匂いがした。


暑くて地面を見ながら歩いてきたマサキは、正面に広がる水平線に思わず腰を抜かした。


(嘘やろ)


紛れもなく、そこには水平線が広がっていた。


振り返ると、喫茶店の近くにあった道路標識を通り過ぎていた。



その日、世界は大規模な崩壊に見舞われた。


島国のほとんどは消失。大陸は島国並みのサイズに。


日本は東は愛知、西は大阪。その規模だけを残した。


SNSでは、

【家を出ようとしたら玄関の前が海に!!】

【朝日が入ってこないと窓を開けたら、隣に高層ビルだと、、、!!】

【家の半分がなくなってた!!】などの声が上がっていた。


マサキはスマホを取り出して電話を掛けたが、トモエにも店長にも繋がらない。


実家や友人達にも連絡したが、誰も出ない。


知っている人間のSNSを全て確認した。


店長だけが、色んな角度に揺れ動くその様子を動画に撮影し、アップしていた。


『こんなに色んな方向になったら滑るしかないわ』


そんな20秒ほどの動画。


マサキは背筋に悪寒が走った。






この水平線の先には何もないかもしれない。







マサキは言葉にならない声で叫ぶしかなかった。






世界とはあっけなくなくなってしまう。


元は世界だった場所。





今いる場所は、本当に【世界】なのだろうか。




-完-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元は世界だった場所で 岸井かなえ @kanae_ks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ