第6話 かつて坂があった場所で
人類が下ってきた坂は、有名な宗教よりも以前からあるらしい。
そして、その有名な宗教の人も、実はこの坂を下ってきたとか、ないとか。
その坂の上には誰も登ったことがない。
下ってきたところだから登るな、と先人の誰かが言ったのだろう。
坂の1/3までは行けど、その先に行ったという話は聞いたことがない。
坂はある。
ただ誰も、その先を知らない。
それが人類が下ってきた坂だ。
近くの資料館には、その人類が下ってきたとされる証拠が残されていたそうなのだが、今は資料館ごとなくなってしまった。
なくなったその場所だけ、他の崩壊とは違い、崖になっているのだ。
今にも他が崩れそうな崖。
その下は何があるのか見えもしない。
真っ暗な崖である。
規制しているわけでもないが、誰1人としてその場所には近付かない。
崖だからというわけではなく、その場所を【ないもの】として扱うような雰囲気なのである。
意を決して、渡航してきたトモエにとって、それは異様な光景だった。
もっと残念がったり、多くのメディアが集まっているように報道されているように感じていたからだ。
誰も近付かない崖に、トモエは近付く気になれなかった。
他の人も同じ気持ちなのかもしれないが、現地に来る前とは違う、重い何かが胃の辺りにズシっとのし掛かった気がした。
宿泊は、坂から10分ほどの場所で取っていた。
楽しみにしていたから、5連泊するつもりだった、その場所は初海外ということもあって、星の付いた場所を選んでいた。
治安は良く、日本人がボーっとしていても、何も起きない。
トモエがボーっとしすぎて、スマホを落としてたときには、そばにいた男の子が走って、渡しに来てくれた。
英語は苦手だった。
極力使いたくないトモエは、「Thank you」だけ伝えた。
ニコニコ笑いながら男の子は何かをしゃべって、トモエから離れていった。
夜ご飯は付いていないので、外で食べる。
来てよかったと思えたのは、パンを食べた時だ。
日本のパンとは違い、小麦の味がした。
街中にあったパン屋の素朴なパンが、今まで食べた中で一番美味しいと感じられた。
滞在の楽しみは、パンで決まりだった。
パンなら買うのに英語もほとんど使わずに買える。
トモエにとって、それは大きなメリットだった。
滞在中のほとんどは、崖のそばで過ごした。
そばと言っても、5mくらいは離れていたが。
ただボーっとその崖の上を見ていた。
坂があったなんて信じられないくらいの崖だった。
滞在4日目の午後、お土産を買おうと街を散策することにした。
可愛い雑貨屋があった。
アマミやマサキの土産には不向きだが、自分や女友達が好きそうなお店だ。
入り口から覗くと、店長が招き入れてくれた。
拙いながらも日本語が出来るらしく、トモエは久しぶりに会話をした。
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