第7話 旅立ち
崩壊を経験してから何日かして、アーサは昔、東の島国へ行きたいと思っていたことを思い出した。
海もないし、気候の変化もない。
気温も服一枚で過ごして快適で、
よほど走り回ったりしなければ汗をかくこともない。
寝ている時も、パジャマ1枚で布団なしでも寝られる。
(ここならそのまま東の島国へ行けるのではないか?)
妻にその話をした。
妻はとても喜んでアーサが旅に出ることを賛成してくれた。
早速、翌日友人に打ち明けると、「館長に相談してみるといい」と言われ、その通りにした。
館長は、白パンと同じくピザ1枚分くらいの直径の黒パンを焼いてくれ、それを大きな布で包んでくれた。
ある者は、話を聞きつけ、家にあったという、一番大きなリュックサックをくれた。
またある者は、家にあった、かつての世界地図をくれ、
またある者は、水の入る入れ物をくれた。
大きなリュックサックには、パンと世界地図、水の入る入れ物を入れて、いっぱいいっぱいだった。
それ以上、何か物を入れられそうな隙間はない。
礼を言い、みんなに見送られ、旅に出た。
友人に、妻を頼んでおいた。
「頼まなくとも、ここのみんなは大丈夫だ」と言ってくれていたが、みんなは良くても、
妻にとってどうだろうか、とふと思う。
だが、妻は旅立ちを喜んでくれていた。
そんな妻にとっておきの土産話を持って帰ろう!と心に決めた。
アーサは旅立つ前に家に寄ろうかと思ったが、出発の決意が揺らぎそうに感じ、踏み止まった。
そして、そのまま小さな時に憧れた東の島国がある方を目指して、旅立ったのだ。
その道中のほとんどは、黒い何もないところを通ることになった。
方向感覚も、距離感も分からない。
ところどころに地面や草木、家があった。
自分のいたところとは違い、人は出てきている様子はなかった。
家も明かりが見えなかったので、もしかしたら人はいないで、家だけなのかもしれなかった。
アーサはどこにも立ち寄ることなく、ただひたすら歩いた。
どのくらい歩いたのか分からないが、喉の渇きを感じて、水を探し、水を飲んだ。
そして、また歩き出す。
不思議なことに腹が空く感覚は、ほとんどなかった。
さほどの距離を歩いていないのかもしれないし、時間が経っていないのかもしれない。
アーサには、そのどちらも分からなかった。
時々、牛や鳥を見かけた。
他の動物もいた。
どの動物も、種類に関係なく、近くの動物同士で集まって丸くなっていた。
そこには肉食も草食も関係ないようだった。
アーサは動物がいるとは思ってもいなかったので、心底安心した。
途中で、お腹が空いたと言うよりは、館長がくれた黒パンが気になって、一口ちぎって食べてみた。
黒パンは白パンとは違い、表面が硬く、中もパサッとしていた。
噛みごたえがあり、噛めば噛むほど、美味しいパンだった。
そして、一口食べただけなのだが、白パンとは違い、満足度が高かった。
これなら何日掛かるか分からない道中も安心していける。
そう思わせてくれるパンだった。
アーサは再び歩いた。
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