第04話 面談
クララベルとナネットが連れてきた金髪縦ロールの少女を、カテリーナは思わずじっくり見てしまった。
「……クララベル?」
「はい、お嬢様」
至極真面目な顔で控えている侍女に、ちょっと毒気を抜かれた顔のカテリーナは……目の前のメイドを指さしながら尋ねた。
「私、男爵家の令嬢を連れてくると聞いていたのだけど」
「はい、そのようにお伝えしました」
「なら、コレは何?」
とてもまじめな顔で侍女が頷いた。
「お嬢様……コレが、連れてくると言いましたバレンタイン男爵家のリリス嬢です」
侍女が本気で言っているのを確認し、カテリーナはメイド服の少女を眺めた。
揉み手をしながら、へらへら笑っている。
カテリーナは今度は騎士に視線をやった。
主の視線に気がついたナネットが、大変不本意ながらという顔で頷いた。
「言いたくはないんですが……本気で本当です」
カテリーナは再度、どう見ても庶民な娘を眺めた。
今度は自信ありげに白い歯を見せて、満面の笑顔で親指を立てている。
家臣二人も当の本人も、誰一人冗談だという者がいない。つまりこの躾もできてない庶民が本当に、側近がやっと見つけてきた「王子を誘惑する令嬢」の候補者……。
「…………はぁああああ!?」
今、どういう状態なのか。やっと理解ができたカテリーナは、令嬢にあるまじき驚愕の叫びをあげた。
わざと感情を出さないようにしているらしい顔のクララベルが説明を入れる。
「この服装は、下町の店で働いているところを直接連れてきましたので……」
「いやいやいや!? 服装もアレですけれど、そもそもの話がおかしいでしょう! 仮にも男爵家の令嬢が、なぜに下町で下女として働いているのです!?」
侯爵令嬢に信じられないと言う顔で見られ、その視線に気がついたリリスが自分の出番かとしゃしゃり出た。
「これっすか? うちの店の給仕の制服なんすよ。飲みに来るおっちゃんたち、メイド服が大好きなもんで。アタシはちょーっとマニアックかなあと思うんすけど、やっぱアレっすか? あんたもこういうの好きなんすか?」
「そ・ん・な・こ・と・は・聞いてないですわっ!」
「なあんだあ。アタシが酒場で働いている理由っすか」
何度か押し問答の末、やっと話がかみ合ったリリスがテヘッと笑った。
「それならそうと、先に言ってくれなきゃ」
「さっきからそう言ってるでしょう!?」
「落ち着いて下さい、お嬢様。コイツは真正面から当たっちゃダメなタイプです」
騎士にコイツ呼ばわりされても気がつかない男爵令嬢は、後頭部をボリボリ掻きながら自分の事情を説明した。
「いやあ、うちの親父が……まあいわゆる『飲みクズ』でして」
元々男爵家の中でも最底辺のバレンタイン家は、領地収入で食っていくのもままならない貧乏貴族だったのだが。
聞けば彼女の父が当主の今では、もうそこらの中産階級に負ける生活ぶりなのだという。
「元々吹けば飛ぶような家なんすけどぉ、中でも親父は『働いたら負けだ』って主義を曲げない信念の人でしてね」
「ソレを自慢げに言う神経が信じられません」
「そんなだから親父は役に付いたことも無いし、趣味が飲酒だもんで毎日酒浸りなんすわ。んで実際のところ、生活費どころか飲み代の捻出にも困っているもんですからね? そんでアタシに『働いて家に金を入れろ』って言うんすよ」
「生活費と酒代の順番、逆でしょ!?」
下町訛りがきついリリスが語る家庭の事情に、カテリーナはもう卒倒しそうになっている。
「なんですか、その体たらくは!? それでも王国貴族ですの!」
「いやあ、男爵家なんてドコでもこんなもんですって」
「いえ、そこまでの家はほぼ無いです」
リリスの現状認識は、偉そうなお嬢様だけでなく侍女からもツッコまれた。
「あれ? もしかして、うちって特別?」
「あたりまえです! なんでそんな境遇に違和感を持ちませんの⁉ まわりにそんな方、いらっしゃる!?」
「そう言われましても。そもそも宮廷にも行ったこと無いもんで、貴族の知り合いってものが……」
「男爵は娘の
「だから、こういう家っす」
リリスをいったん離れたソファに座らせておいて、クララベルがカテリーナに囁いた。
「どうですお嬢様。凄い令嬢でしょう?」
アレを令嬢と呼んで、良いのかどうか……。
「あの娘を宮中に送り込んで、本当に物の役に立ちますの!?」
「正直それは我々も、大変心もとないのですが……」
初めから不安な事を言いながら、探し出した侍女と騎士がチラっと脳天気な娘を見る。
「うっひょー、天井にまで絵が描いてある! えっ? ちょっ、あの金色本物の金? うわぁ……端っこを削って、ちょろまかして帰ってもわかんないわよね?」
男爵令嬢は貧乏人丸出しで、物珍し気に部屋の豪華な内装に感嘆していた。
陰鬱なまなざしのクララベルが、リリスを連れて来た経緯を説明した。
「他にも候補者を探して勧誘はしたのですが……やはりまともに常識のある令嬢ですと、どんなに落ちぶれていても計画に乗ってくれませんでした」
「いやまあ、それは……そうですわね」
少しでも考える頭があったら、男爵令嬢ごときが大貴族と王家の縁談に割って入るのがどれだけ危険かすぐに分かる。王太子を囲む姫君たちも本気でカテリーナに取って代わろうと狙っているのは、元々王妃を狙えるような家柄の令嬢だけだ。
「そんな仕事を受けそうなアホの子を探して廻って、やっと見つかったのがアレです」
「不安しかないわね……」
でも、他にいないんだからしょうがない。
相談が終わって再びソファに腰かけたカテリーナが、対面に座らせられたリリスを見据えた。
「リリスさんと仰ったかしら。だいたいの説明はクララベルから聞いているわね?」
「へいっ、親方!」
リリスは一回クララベルに言葉遣いの
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