第5章 僕は、チカラになりたい。12

「ちょっと待て――――――――――!」


 僕は叫んだ。夢中だった。

 

 新垣さんの背後に、ガラの悪い男たち3人が見えたからだ。

 そして、そのさらに後に……姿も見えたからだ。


 でも迷わず僕は、新垣さんと男たちとの間に滑り込むと、両手を広げた。


『――まさに間一髪! 乙幡、間に合ったようであります‼ すでに乙幡の全身は汗でびしょびしょ、顔もぐちゃぐちゃ、足もガタガタといった満身創痍ではありますが、乙幡のはまったく死んでおりません! むしろ、その瞳に宿る「怒り」は、まさに今、頂点に達しようとしているようであります! そして、その双眸そうぼうはまっすぐに、憎き赤坂を見据えているわけであります‼』


「あぁ? 誰だー、テメエ?」


 すぐにガラの悪い男たちのひとりが反応する。


「乙幡……くん?」


 新垣さんの驚いたようなつぶやきが背後から聞こえた。


「新垣さん、もう大丈夫。大丈夫、だから」


 僕は振り返らず、それだけ告げる。


 と、3人の男たちの背後からあの軽薄な笑い声が聞こえ、


「おいおい、誰かと思えばデブはたかよ!」


 赤坂が皮肉めいた笑みを浮かべ、言った。


「てか、おまえ痩せた? まさかダイエットしたの? マジ、ウケるわ」


 ひと仕切り笑い声を上げると、赤坂は素の表情に戻り、凄んだ。


「……でも、中身はあのデブはたのまんまだろ? クソデブの分際で、しゃしゃってんじゃねえぞ、ゴラァ――!」


 その声に、過去の虐めの記憶がフラッシュバックする。


 ――怖い。逃げたい。


 そんな弱気が一瞬、頭をもたげた。

 が、次の瞬間、脳内に伊達さんの声が弾けた。


『おい、剛! 顔上げろ! 前を見ろ! 彼女のことが好きなんだろ? だったら守れ! ヒーローになれ! どんなに無様でもいい! どんなに格好悪くたっていい! トラウマに負けるな! 自分に負けるな! おまえはこの一ヶ月で変わった! 変われたんだ! あの辛かったトレーニングを思い出せ! それに耐え抜いた自分を思い出せ! 自分を信じろ! 今のおまえなら、やれる! できる! さあ、運命に抗え! 宿命を蹴散らせ! 行け! 剛!!』


 その言葉は、もはや実況というより、ボクシングのセコンドのようだった。

 だとすれば――


 ――僕は迷わず、このリングに上がるまでだ!


 ただ、目の前の状況はかんばしくない。

 実質4対1。

 圧倒的に不利な状況。

 かつ、ここまで全力で走ってきたこともあり、スタミナ的にはゼロに近い。


 どう考えても、戦えば不利だ。ならば……


「新垣さん、逃げて――!」


 僕はそう叫ぶと同時に、いきなり眼前の3人めがけタックルを仕掛けた! 


 そして、左手で左の男の胴をつかむ。

 右手で右の男の胴をつかむ。

 真ん中の男には、みぞおちの辺りに頭突きをかます。

 さらに全体重と力を込め、3人を押さえつけた。


 道場での休憩時間、選手たちから護身術だと教えられたタックルがこんなところで役に立った。


 不意をつかれたこともあり、3人はその場に倒され、低くうめいた。

 よし、奇襲は成功だ!


 すぐさま僕は振り返り、新垣さんを見る。

 が、彼女は恐怖のせいか、まだ立ちつくしたままだった……。


「逃げろ――――――――――――――――――――――――!」


 腹から叫んだのと同時、左右から鋭いパンチが降ってきた。

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