第5章 僕は、チカラになりたい。11

『さあ、巨大な倉庫群が見えてまいりました! 乙幡剛がついに目指していた○○倉庫街にどうやらたどり着いたようであります! おそらくですが、乙幡史上最速記録による8㎞のランニングだったでしょう。乙幡、一旦、その場に停止しました。そして、全身で息をし、額から滝のような汗が滴っております!』 


 ○○の倉庫街になんとかたどり着くと、日はだいぶ傾きかけていた。

 

 僕は息を整えつつ、立ち並ぶ倉庫群を見渡す。


 新垣さんは……どこだ!

 

 僕はスマホを取り出すと、再度リダイヤルしてみた。

 

 ――頼む、出てくれ!


 そう祈ってはみたが、やはり呼び出し音がなるばかりで、いっこうに繋がらなかった。ちきしょう! スマホを切り、僕は再び駆けだす。


 とにかく、この辺りをしらみつぶしに走り回って探すしかない。


 そして数百メートル進むと、右前方から微かな悲鳴のようなものが聞こえた……気がした。

 

 ――まさか、今のは⁉

 

 悲鳴のした方へと、急激に方向転換する。

 シューズがアスファルトに横滑りしたが、なんとか持ちこたえた。 


  声がしたのは、巨大な倉庫と倉庫の間を縫う細い路地の先だった。


額を伝う汗もそのまま、走る。


  バクバク激しく脈打つ鼓動に合わせ、嫌な予感も胸にせり上がってきた。


 ――頼む、無事でいてくれ!

 

 路地の先を進む。


 さらに、進む。


 薄暗い空き地が見えてきた。


 さらに、急ぐ。


 もはや、這うように走る

 

 もがくように駆ける。


 そして……


 そして!



 ――……新垣さんが、いた。

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