第5章 僕は、チカラになりたい。10


「ねえ、先輩……ほんのちょっと……寂しいところですね」


 私は、なんとか笑みを絶やさず告げた。


 とっておきの場所があるんだと言う先輩についてきたのだけど、そこは海すら見えない倉庫街の薄暗い空き地だった……。


 そう言えば、今日は最初からちょっとだけ先輩の様子がおかしかった。乙幡くんからの電話に出たら「デートの時はスマホの電源を落としてほしいな。僕だけを見てほしいから」と私のスマホを奪うと、「帰りに返すから、いいよね」と電源を切り、自分のポケットに入れてしまったのだ。


 そして今度は、この場所だ。


 きっと、ここから倉庫の中のエレベーターを使って屋上に出るとか……そういう感じの流れ、だよね? 先輩。

 

 頭の中で修正解釈しながら、私は先輩の背中を追った。

 と、先輩が振り返らずにこう言った。


「――新垣さん、俺のこと好きだよね?」


「えっ……いや……えっと……はい」


 思わず、口ごもってしまった。

 先輩ったら、なんで急に恥ずかしい質問をするのかしら……。

 

 自然と視線は足元に落ち、なんだかそわそわしてしまう。

 すると、私の中にある閃きがあった。


 えっ? ひょっとして、まさかここで……キス……とか⁉

 

 心臓があり得ないくらい、ドキドキしてきた。

 私は動揺をさとられないように小さく新呼吸すると、ゆっくり顔を上げた。


「……えっ?」


 その光景に、思わず声がもれた。視線の先には赤坂先輩……そして、まったく知らない目つきの悪い男の人が3人立っていた。


「えっと……先輩? この方々は?」


 まさか先輩、知り合いじゃないよね? こんなガラの悪そうな人たち……。


「あぁ、紹介が遅れたね。この方々は僕がお世話になってる先輩方だよ」


 赤坂先輩は、いつもの爽やか笑顔でそう告げた。


 でも……なんか……これって、おかしいよね? 


 私の頭の中が疑問符で埋まっていくと、先輩がさらにこう続けた。


「新垣さん、さっき俺のこと好きって言ったよね?」


 私はよくわからないまま、小さくうなずく。

 すると、彼の背後にいたガラの悪いひとりがこう言った。


「赤坂、おまえも罪なヤツだなぁ〜」


「こんな可愛いコをさぁ〜」


 さらにもうひとりが言った。


 それを受けて、先輩がさらに続けた。


「俺のこと好きならさ、俺がお世話になってるこの先輩方とも仲良くできるよね?」


「えっ……どういうことですか? 先輩」


「どういうことって、新垣さん。わかるよね? もう高校生なんだしさ。男と女がするって言ったら……どういうことか」


 すると、先輩の背後にいた3人がニヤニヤしながら私に近づいてきた。


「ねえ、先輩……冗談……ですよね?」


「正直、僕は君みたいにしょんべん臭い女は、苦手なんだよね〜。付き合って一週間近くも経つのにキスさえさせてくれないなんて、あり得ないし。先輩たちにいい感じに汚されて、大人になったら……抱いてあげてもいいよ」


 そう語る先輩の、よく見たら冷たい笑みに背筋が寒くなる。


 そうしている間にも、男たちが距離を詰めてくる。


 自然と頬に涙が伝った。そして、私は天に叫んでいた。


「いや……いやぁ――――――――――――!」


 初めてのお付き合いが、私の初恋が、こんなことになるなんてあんまりだよ。

 私はこの理不尽に、できる限りの悲鳴をあげた。

 

 でもどんなに叫んでも、こんな寂しいところじゃきっと誰も助けになんて来ない……。

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