第5章 僕は、チカラになりたい。8

 ――新垣さんが危ない!


 僕はスマホを手に取ると、すぐに新垣さんにメッセージを打った。


〈今、どの辺?〉


 幸い、すぐに既読となった。そして、返信が来た。


〈今、○○の倉庫街のあたりだよ。なぜか先輩がこの辺りの運河を見せたいって……これってどういう意味かな?〉


 僕は迷ったが、ライン通話で新垣さんに電話をかけた。


「あっ……乙幡くん……もしもし?」


 すぐに新垣さんが出た。僕はほっとし、すぐまくしたてた。


「ごめんね、デート中に。新垣さん、理由は後から話すから、今日はデートを切り上げてすぐに帰って!」


「えっ? ……なに? ……ちょっと電波が悪くて……」


 確かに電波が悪いらしく、彼女の声も途切れ途切れになる。そして、10秒ほど後、突然、乱暴にブチッと電話が切れた。すぐにかけ直すが、呼び出し音はなるが新垣さんは出なかった……。


 その時点で、僕は自然と駆け出した。


 一旦、駅を目指して走った。走りながら、スマホを操作し新垣さんにラインも送ってみるが、今度は既読にならなかった。


 先ほどの男たちの会話がよみがえり、嫌な予感が頭に浮かぶ。僕は、それを振り払うかのように、さらにスピードを上げた。


 駅前に着くと、ひどい人でごった返していた。そしてメガホンを持った駅員が繰り返し叫んでいる。


「只今、□□駅構内で車両故障が発生した関係で、ダイヤに大幅な乱れが生じております! 現時点で運転再開の目処はついておりません!」


 ちきしょう! よりによって、なぜ今日なんだ‼


 即座にロータリーのタクシー乗り場に視線を投げる。そこにも、すでに長蛇の列ができていた……。


 新垣さんのラインを改めて見る。


〈今、○○の倉庫街のあたりだよ〉


 ○○の倉庫街は、目の前の地元の駅から3駅先の港湾エリアにある。巨大な倉庫街で大型トラックは行き交うが、歩行者はまばらなところだ。さっきのアロハ男たちの言う通り、赤坂が新垣さんを襲わせようと計画しているなら、格好の場所のようにも思えた。


「ふざけんな……ふざけんな、赤坂――!」


 僕は周りの人も自分自身も驚くほどの叫び声を上げると、再び猛スピードで駆け出した。


『おっと! 雄叫び一発! 我らが乙幡剛が韋駄天いだてんのごとく駆け出しました! その表情には、明らかな「怒り」が見て取れました。ほとんど感情を見せなかった、あるいは隠してきた、あるいは自ら自身をあざむいてきた乙幡剛が、感情をむき出しにして駆けていきます! ついに自覚してしまった恋心。その想い人、新垣さんを救うため、憎き赤坂の毒牙から守るため、乙幡がついにしたように見えるのは私だけでありましょうか⁉ いや、He is not what he was. 彼は昔の彼ならずであります! 怒りも、迷いも、恋心も、自虐も、自己嫌悪も、すべてをひっくるめて、むき出しの乙幡剛が、今、全身全霊で駆けだしたようであります‼』

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