第5章 僕は、チカラになりたい。7
5日後、午後3時過ぎ。
今日は土曜日で、学校は休みだ。
もう9月のはずなのにいまだ強い日差しの中を、僕はランニングしていた。
ちょうど今ごろ、新垣さんは赤坂とのデートの最中だろう……。
公園で新垣さんの相談を受けてから、毎日のように新垣さんとはラインのやり取りをした。時には、授業中もラインが届いた。内容は、いつも赤坂のことばかりだったけれど……。
その度に、頭の中では伊達さんが僕を叱咤する叫びを重ねた。だけど、僕はそれを無視し、新垣さんを励ましたり、応援するようなラインを返し続けた。今日のデートの話も、じつは新垣さん自身からラインで聞いたものだった。
どんな服を着ていったら、先輩は喜ぶだろうか?
どんな髪型をしていったら、先輩は気にいってくれるだろうか?
そんな乙女なラインのやり取りを、昨晩も繰り返した。
いったい、自分でもなにをやっているんだろうかと正直、思う。
ただ、たとえそんなやり取りでも、好きな人と毎日のようにラインのやり取りができることに、繋がっていると思えることに、経験したことのない幸せを感じていたのも事実だった。文面から、新垣さんのあの笑顔や喜ぶ表情がイメージされると、心がぽかぽかと暖かくなった。
しかし、今日、デートの当日を迎えると、僕の胸は騒ぎだした。
自分にはどうしようもないことだと頭ではわかっているのだけれど、新垣さんと赤坂が並んで歩く姿を想像すると、胸がどうしようもなく乱された。ふたりの待ち合わせ時間の2時を過ぎると、その胸騒ぎは大きくなり、家でじっとしていたくない気分になった。
だから、僕はジャージに着替え家を出て、ランニングを始めたのだ。走れば、少しは気が晴れると思ったからだ。
でも走り始めてまもなく、僕は後悔した。ひとつは、思いのほか残暑が厳しく、とにかく暑かったこと。もうひとつは、気分を変えようと普段行かない繁華街方面に足を向けたら、人の多さに度々、足を止めを喰らったことだった。
『乙幡剛、傷心で頭が若干やられてしまったんでありましょうか? なぜ、河川敷方面でなく繁華街方面に駆け出してしまったんでありましょうか? 人が多すぎて度々、足を止めざるを得ない状況では、ランニングの爽快感ならびに私の実況の爽快感も半減してしまうわけであります!』
そんな嫌味な実況を聞きながら、僕は繁華街でも比較的すいている路地裏に進路を変えた。
――あれ? ここって……。
気づけば、夏休み初日のあの事件のあった路地にたどり着いていた。
『おっと? 乙幡は自虐キャラを確立しようとしているんでありましょうか? なぜ、よりによって今日、この道を選んだんでありましょうか⁉』
伊達さんの言う通りだった。適当に走っていたつもりなのに、皮肉なものだと僕は速度を速めた。が、次の瞬間。
――‼
僕はひどく驚き、即座にゴミ集積所の陰に身を隠した。
デジャヴュ⁉ なんと、あの日、僕を殴ったあの茶髪アロハ男たちが向こうから歩いてきたのだ! さっきまで走っていた心臓は、まだ荒々しく、額には汗が何本も伝った。と、信じられない会話が聞こえてきた。
「ん? 新垣? あぁ、たしか……赤坂の高校のかわいいコ、だったよな?」
「そうそう。ほら、この前、俺らがこの道で因縁つける茶番した、あの例のさ」
「はいはい、思い出した! で、そのコがどうしたんだよ?」
「赤坂のヤツ、今日、そのコを先輩たちに献上して、ご機嫌取ろうとしてるらしいぜ。例によって、襲われた
「アイツ最近、そんなんばっかだな」
「赤坂のヤツ、女をモノとしか思ってねえから。アイツはマジ鬼畜」
「ま、それで俺らも甘い汁吸えてんだからいいじゃん」
「ま、そりゃそうだ。あぁ、俺も先輩のお下がりでいいから新垣ちゃんとヤリてぇ――!」
「バカ、声でけーよ!」
大笑いしながら、茶髪アロハ男たちは脇を通り過ぎていった……。改めてふたりの横顔を見たが間違いない。やはり、あの時の男たちだ!
『――おい、剛! 今の話の新垣さんが、想い人の新垣さんだとしたら――』
――新垣さんが危ない!
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