第4章 僕は、強くなりたい。11
『清々しい朝焼けが、乙幡剛の行く道を照らしております。道路に長く伸びた彼の影は、規則正しい一定のペースで前進を続けているわけであります。もはや、その前進は歩きではなく完全な走りであります。少し前までは、軽めのジョッグでした。さらに少し前は、早歩き。さらに最初に遡れば、歩くのがやっとでありました。しかし、今、乙幡は確実に走っているわけであります。ストライド走法というよりは、ピッチ走法で、腕のふりは機敏であります。そのペースも、なかなかのペースでありまして、すでに肉体から解放されました私でありましても、ついていくのに骨が折れる、そんなペースであります。もはや、折れる骨すらない我が身でありますが……っと、おっと! 前方の道と川との合流地点、爽やかなアイツが逆光の中で手を振っております! そう、斬日本プロレスの若手注目株、小谷選手であります! そして……乙幡が近づくと、すっと乙幡の隣を並走し始めました‼』
「おはようございます……小谷さん」
「おはよう、剛! ここまでのペース上がったんじゃないか?」
「いえ……なんとか走る……ことが……できるように……なった……だけです」
実際は、かなり無理をしていた。
かろうじて道場まで走れるようになった程度なのに、あえてタイムを測り、前日のペースを上回るべく自分にハードルを課したのだ。だから正直、あまり会話する余裕もなかった。
「にしても、スゴい進歩だな、剛! どうだ? このまま道場に行ったら、少し時間が早すぎる。もう少し河川敷を迂回して走らないか?」
ゲッ……マジすか? と内心思ったが、
「……はい……いいですね」
なんて気づくと応えてしまっていた。
内心、自分で自分に苦笑する。無理しちゃって、俺……。
でも、キツいけど、まったく走れなかった自分が走れていること自体がうれしかったのだ。キツいけど、少しでも進化を実感できると、なお気持ちよかった。
『おっと? いつものコースを外れました! 道場への最短距離は進まないようであります! このまま、河川敷を朝から自主練とばかりに走り続けるようであります‼ さあ、どこまで駆けていくんでありましょうか? その先に、乙幡剛は何を見るんでありましょうか? 朝焼けに染まる川の水面には、駆けていく若者ふたりの長い影がキラキラと輝いております!』
――計画30日目、トレーニング成果
・高速ヒンズースクワット:300回(50回×6セット)
・プッシュアップ:100回(20回×5セット)
・腹筋:100回(20回×5セット)
・ロープ登り:5回
・ロードワーク:25キロ(ランニング)
・縄跳び:700回(100回×7セット)
・ジャンピングスクワット:30回(30回×1セット)
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