第4章 僕は、強くなりたい。9
『早いもので、計画も今日で20日目を迎えたわけであります。毎朝のロードワークにより、青白かった乙幡の顔もすっかり日焼けし、黒く引き締まった印象に一変いたしました。また、毎日続くハードワークに加え、規則正しい睡眠と食事が乙幡の肉体を現在進行系で大改造していっているわけであります。まさに、劇的ビフォーアフター状態! 肉体と精神の構造改革が、今まさに断行されているわけであります‼ そして、本日も何とかトレーニングを終えたわけでありますが、ここでまさかの赤鬼からのサプライズ! 乙幡には、まさに青天の霹靂の追加メニューが発表されたわけであります。そのメニューとは斬日本秘伝の地味に地獄なトレーニング、その名も斬日式ジャンピングスクワットであります! このスクワットは、その伝統にのっとり、選手たちが輪になって行われる、言わば合同鍛錬であります。しかも、行うスクワットも通常と異なり、前方にジャンプするようにかがみ、後方にジャンプするように足を伸ばしつつ戻るという一連の動作を繰り返す、変則的なスクワットであります。これが見た目より、じつはかなりキツい! 私、伊達も新人アナ時代にこちらのスクワットを体験させて頂いたことがあるんですが、記録は2回という哀れな結果に終わったわけであります。レスラーでも1セット50回がマックスの目安でして、屈強なレスラーたちも悲鳴を上げるほどの、エグいスクワットなわけであります! 乙幡は初回ということで課された回数は10回でありますが、忘れてはいけないのは乙幡剛はすでに今日丸1日のメニューを消化した後だということであります! すでに通常のスクワット150回をはじめ、全身に満遍なく疲労物質乳酸が蓄積しているわけであります。しかも、若手レスラーたちとの合同鍛錬につき、乙幡がそのスピードについていけるかという課題もあるわけであります。さあ、そうした困難を乗り越え、今日も全メニュー制覇をできるんでありましょうか⁉ さあ、間もなく、始まりそうであります‼』
たとえ僕が限界を超えていたとしても、大鉄さんが「今日はここまで」と言わない限りトレーニングは終わらない。だから、僕はまだ熱を持った太ももを何回も何回も叩き、車座になった選手たちに並び立った。
他の選手たちも、どうやらこのジャンピングスクワットが今日の練習の大ラスのようで気合いの入った表情をしている。僕の中にも緊張感が走る。考えてみれば、同じ道場にこそいたが、同じトレーニングをこなすのはこれが初めてだ。否が応でも、硬くなってしまう……。
それを察したのか、隣にいた小谷選手がいつも通りの爽やかな笑みで言った。
「おい、剛! そんな硬くなるなって、死ぬわけじゃないんだ」
続いて、他の選手たちも声をかけてくれた。
「がんばろうぜ、剛! いよいよ、一緒のメニューだな」
「剛! 一緒に声出してこうぜ! ラストだ!」
「ぶっちゃけ俺らもキツいんだよ、コレ。だから、一緒にがんばろうな」
「おい、そこ! プロレスラーが高校生に弱音を吐くな!」
地獄耳なのか、大鉄さんが最後の声に一喝した。
選手たちから小さな笑い声ももれた。
しかし直後、大鉄さんの「用意!」の掛け声で、道場内は再び静まり返った。
同時に、選手たちがやや前かがみの準備の姿勢を取る。
僕も選手たちに習い、同じ姿勢を取った。
「よーし! 剛は10回! 他の者は50回! いいかー!」
大鉄さんが気合いの入った声を上げた。
「「「「「はい!」」」」」
僕も声を張り上げた。自分を鼓舞するために。
「始め――!」
その声と同時に、一斉に選手たちが前方にジャンプしかがむ。
「「「「「イ――チ!」」」」」
その掛け声とともに、後方にジャンプして元の位置に戻る。
うっ! なんだコレ……めちゃくちゃキツい!
一回目にして、内心で悲鳴を上げる。
それでも、他の選手たちに遅れぬよう、なんとか喰らいついていく。
『さあ、未来の斬日を担う若虎たちが、一糸乱れぬ動きで回数を重ねていく! その中にひとり交じる高校生、乙幡剛! かなりキツそうだが、ついていっているぞ‼』
「「「「「ゴ――! ロ――ク! シ――チ!」」」」」
あと、3回!
「「「「「ハ――チ! キュ――! ジュ――!」」」」」
『10の掛け声だけ大きくなって、乙幡ノルマを達成ー! ……っと? 乙幡がやめないぞ! 乙幡がやめません! どこまでいけるか限界に挑もうとしているようであります‼』
小谷選手が10回でやめなかった僕を見て、微笑んだ。
他の選手たちがまだがんばっているのに、自分だけやめるのが嫌だったのだ。
行けるとこまで、限界まで、やってやる!
「「「「「ジュ――サン! ジュ――シー! ジュ――ゴ!」」」」」
ヤバい! 遅れてきた。
「「「「「ジューロク! ジューシチ! ジューハチ!」」」」」
18回目で前にかがんだ後、もはや後方にジャンプにできず、僕はその場に崩れ落ちた。
太ももがバカみたいにアツく、小刻みに痙攣していた……。
『――乙幡剛、10回のノルマを超えた後も選手たちに喰らいつき、挑戦をやめませんでした! まったく、なんという進歩でありましょうか! 乙幡剛の中に初めて、根性という概念が芽生えた、そんな風にも感じられる瞬間でありました――‼』
――計画20日目、トレーニング成果
・ヒンズースクワット:150回(30回×5セット)
・プッシュアップ:70回(10回×7セット)
・腹筋:70回(10回×7セット)
・ロープ登り:50センチ登る
・ロードワーク:15キロ(ほとんどジョギング)
・縄跳び:300回(100回×3セット)
・(新規)ジャンピングスクワット:17回
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