第3話 「引き返せ」

 また新月の夜がやってきた。もう店は出さないのだろうと、半分諦めた気持ちで仕事から帰っていると

 春子は息を呑む。あった。あの店だ。黒い絨毯に老婆が座って、商品がその前に並んでいる。

 駆け寄って話しかける。

「これ!これください!」

 目の前にある、赤色に灰色の何かがふりかかった商品を指差す。

 老婆は淡々と商品を袋に詰める。

 春子は気になっていたことを聞いてみた。

「この店って不定期でやってるんですか?」

「新月の夜にやってるよ」

 そう言う老婆は老爺の声だ。

 春子は訊ねる。

「代金は」

「金はいらないよ」

 老婆が言う。

「前回も引き換えにするものは頂いたからね。今回も貰いに行くよ。私ではない者がね。」

「引き換えにするものってなんですか?」

「心当たりがあるはずだよ。」

 春子はそう言われても部屋からなくなった物もないし、と頭を巡らせる。

「・・・引き返すなら今のうちだよ。」

 小声で老婆がつぶやく。

え、と何のことだかわからなかったがそれきり老婆が話すことはなかった。

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