第31話 まいとゆかー②

 私ねまいのことが好き。


 でも、好きじゃなかったの。


 まいの想う好きと私の好きはきっと違う。


 まいが私に求めているものと、私がまいに求めるものは違う。


 鍵穴は刺さらないし、歯車はかみ合わなかった。


 そんなのが、私達だったよね。


 考えたの、そもそも私は一体、まいに何を求めていたんだろうって。


 多分ね、最初はきっと、都合のいい幻想だったんだ。


 私の代わりに頑張るあなた。私の代わりに歌を歌うあなた。私の代わりに前を向くあなた。


 私の代わりに誰かを好きになるあなた。


 そんな、身勝手で都合のいい幻想。


 私ができなかったことを、できるあなたに委ねただけ。


 自分が失った夢を、あなたに託して代わりに叶えてもらっていただけ。


 ただ、それだけだったんだ。


 好きになる価値なんてなかったんだよ。


 まあ、女の子が告白してくるなんて、そもそも予想してなかったから。


 突然、今まで見えてすらいなかった選択肢をだされて、あまり考えずに断ったのもあるかな。


 私は人だったから。


 ただね。


 ただ、それでもね。


 私はまいの隣にいたんだ。


 これもきっと身勝手な理由でさ。


 単純に、まいに好かれることが心地よかったんだよ。


 私を好いてくれた人なんていなかったから、いいや、昔いたはずなんだけどね。


 自分を嫌いになるときに、ついでにその人も捨てちゃったから、掴み損ねちゃったから。


 あれ、独りだ、って気づいたときにはもう遅かったんだよね。もう、誰も私のことが好きじゃないし、何より私が私を好きじゃなかった。


 そんなときに、まいに好きだって言ってもらえて。


 嬉しかったんだよ、望む形では応えられないけれど。


 それでも、私を好いてくれる人がいるんだって、本当に嬉しかったんだよ。


 だから、私に引っ付くまいをなんだかんだ許して、だから、私か離れるときに気持ちよく背中を押せなかった。


 離れたくないって泣くまいに上手く、言葉が掛けられなかったんだ。


 きっと、本当は、笑って送り出してあげるべきだったのにね。


 だから、まいが私の所に戻ってきたとき、酷い話、安心しちゃってさ。


 ほんとね、酷いやつでしょ。


 ……私はね、ずっとまいが羨ましかった。


 震えても歌うとことか。ギター弾けるとことか。なんだかんだ前を向くとことか。誰かを好きになれるとことか。


 そういう、私にないものをもってるのが、私にできないことをできるのがね、羨ましかったんだ。


 でも、同時にね。そんなまいと一緒にいたら、私もちょっとましなやつになったみたいな気分になれたの。


 まいと一緒にいるだけで、頑張れる気がしたんだ。まいと一緒にいるだけで、自分も何かやってみようって思えるんだ。まいと一緒にいればね、嫌な仕事もさ、まあやりますかって気持ちになれてさ。だからね、まいといたら、私も、誰かを、好きになれる気がしたんだ。


 ごめんね、ずっと、ずっとわがままで、みっともなくて、ごめんね。


 でもね、私、こんななの。


 お姉さんぶったり、年上ぶったりしてたのも結局、誤魔化してただけ。


 誰より尊敬するあなたにちょっとでもよく見られたくて、見え張って、頑張ってただけ。


 ほんとは自信ないのに、みっともないよね、でもまいには頼って欲しくてさ、応援したくてさ、よく見られたくてさ。


 バレてたかな、バレてたよね。すぐ、怒ってたり、拗ねたりしてたもんね、バレちゃうよね、やっぱり。


 はは、でもさ。まいはずっとそんな私と一緒にいてくれて。


 ずっと、ずっと好きなままで居てくれてさ。


 ほんと、どんだけ私のこと好きなのって感じだった。


 そういえばさ。


 ほんとはね、触られるたび、ドキドキしてたの。


 女の子にそう言うの感じたことなんてなかったんだけれど。


 私のことを好きな人に触られてるんだって。


 そう想うだけで、ドキドキしたの。


 あと変な話なんだけれどね、嬉しかったの。


 すごいよね、ハグしてるだけで幸せになれるだって、初めて知ったよ。


 抱き着いてるだけで、不安が嘘みたいになくなってくの。いろんな辛いことも苦しいことも、そうしてるだけで綺麗になくなっていっちゃうの。


 なんでだろ、すごいよね。


 あ、でもね、最初は本当に恥ずかしかったし、際どいとこ触られたらね、嫌だったよ?


 だって、そーいうの触ってくるの、駅の痴漢くらいしか経験なかったし。


 最初は本当にセクハラが嫌でポイントつけ始めたんだよね。なんか痴漢思い出しちゃって。


 うん、最初は嫌だった。


 でも、あれが結果的によかったのかな?


 だって、まい、ポイントつけ出してから、なんというか奥手、じゃないけどじっくり来るようになったもんね。


 最初はハグ試して、しばらくしたらことあるごとに私にキスして。


 そしたら、そーいうのはさ、痴漢とは違ったから、なんか拒絶するにできなくて。


 で、この人は私のことが好きでやってるんだよなあって思うと、悪い気もしなくてさ。


 ……そう思うと、外堀から順々に埋められてたんだね。うーん、我ながら恥ずかしいな、はは。


 いつか、まいが唇にキスしてきたとき、覚えてる?


 言ったかもしれなけれど、あれ私、初めてだったの。


 正直ね、ドキドキしてた。


 あとね、嬉しかった。


 まいが必死に我慢して、私が嫌なとこまでしないようにしてくれるのが嬉しかった。


 ああ、本当に、私、大事にされてるんだなって、それで求められてるんだねって感じられたのが嬉しかった。


 初めてだったけど、まいにならまあ、あげてもいっかなって自然に思えたんだ。


 それから、一緒に暮らして、四か月。


 四か月かあ、それだけしか経ってないんだね。なんか、何年も一緒にいたみたい。


 あ、そうだ。セクハラポイントね実は50超えたあたりからセクハラポイントじゃなかったの。


 まあ、途中まで、名前ないんだけど。


 だから、あえて何ポイントとは言ってなかったでしょ?


 ふふ、実は伏線は貼ってあったんだよ。……気づいてなかった、よね?


 あるときね、思ったんだ。ああ、これはもうセクハラポイントじゃないなって。


 だって、触れられるたび、ドキドキしてるんだもん。


 自分でいうのもなんだけど、嫌がってなかったからさ。


 ごめんね、まい追い出されるかもって、ずっと心配してたよね。


 ごめんね。傷つけちゃって。ありがとう、それでも傍にいてくれて。


 日記見返したらわかるんだけどね、段々、慣れてくの。


 ちょっと触られるだけで嫌だったのが、これくらいならまあいいかって。


 肩にキスされるだけで照れてたのが、ちょっとくらいのキスならまあいいかって。


 段々、段々、慣れてってさ。


 気づいたら、当たり前に触れ合ってる自分がいてさ。


 あ、私、変わってるんだ、ってなんとなく気づいたんだ。


 嬉しかった気もするし、怖かった気もする。


 ほら、変わるのってやっぱ怖いし。私はまいを一回、振っちゃってるし? どの口が、なんか最近、まいに触れられたらドキドキするようになってー、なんて言えるのって感じだよね。


 急にそんなこと、できないからさ。


 だから、ちょっとずつ変わることにしたんだ。


 ゆっくり、ゆっくりね。怖くない、ぎりぎりの速さで。


 ねえ、まい。誕生日、嬉しかったよ。


 曲ね、すっごいよかったよ。


 まいがさ、こんなに強くなったんだって見せてくれたみたいでさ。


 すごいね、頑張ったよね、諦めなかったんだよね、最初、独りでさ、橋の下でさ、泣いてたのにさ。……。


 昼馬さんや宵川さんと一緒にさ、歌ってさ。すごい、すごいね嬉しかったんだ。


 まいがね未来を見せてくれたみたいでね。


 どんなに弱くたって、どんなに拙くたって、どんなに震えてたって。


 ここまで、来れるんだよ。


 今を目一杯、生き続けて、ここまで来たんだよって。


 一年でまいが歩いてきた道をいっぺんに見せられてるみたいでさ。


 本当にね、感動しちゃって。


 もしかしたら、私も、頑張れるかなって。何か、出来るかなって、そんな勇気を、いっつも、まいはくれるんだよ。……。


 一緒に歌ってくれたのもね、嬉しかった。


 私も一緒に歌っていいんだよって、そう言われたみたいでさ。


 見てるだけじゃなくて、私も頑張れるんだよって、励ましてもらったみたいでさ。


 何より、まいの一年の中に、私がちゃんといたんだなって感じられてね。


 嬉しかった。嬉しかったの。


 曲、一杯書いたね、あんなにあったんだってびっくりしちゃった。


 全部の曲がさ、まいとの思い出とセットだから、色々思い出しちゃえるんだ。


 あの曲の時は、こんなことがあった。この曲の時は、あんなことがあったって。


 そうやって、思い出してたらね、私もちょっとは頑張れるようになったかなって、そう想えて。


 心があったかくてね。


 ずっとこうしてたいって想えて。


 ああ、これが幸せなのかな、ってそう想えたの。


 それからはね、幸せポイントって名前にしたの。


 100になったら、私の気持ちをちゃんと言おうって思ってさ。


 ちょっと安直すぎるかな。まあ、セクハラポイントもそのまんまだし、いいよね、私らしくて。


 ねえ、まい。


 好きな人に触れるのって嬉しいね。


 好きな人に触られるのってドキドキするね。


 まいのことを好きになればなるほどね、心があったかくなるの。身体がね受け容れちゃうの。


 一杯、触りたいし、一杯、触られたいの。


 それだけで、嬉しいの、幸せなの。


 ねえ、まい、聞いてる?


 ………………。



 ねえ。



 まい。



 40分、経ったよ?



 」





 ※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る