第17話 別にそうでもないはずのあなたとー③

 「で、落ち着いて話せる?」


 「はい、ばっちりです。今、私は多分、歴代最高に落ち着いています」


 「それは何より……」


 お風呂上りにお互い寝間着に着替えて、飲み水をもって私たちはゆかさんの部屋に集合していたのでした。


 ちなみに、脳の八割はさっきのゆかさんの自分からお胸に手を誘導していた事実の処理に使われているのであった。


 それもあって、ひどく落ち着いている。不安なんて脳みそにつっこんでる場合じゃねえ。


 ちなみに、ゆかさんはやっぱりさすがにあれは恥ずかしかったのか。酷く顔が赤い、風呂上りだけのせいではない。


 恥じらっておられる眼福である。うむ。


 許されるのなら画像を保存しておきたいところだが、許されないのはわかりきっているのである。残念。


 「じゃ、話して」


 「はい、感情が複雑に絡み合っておりました」


 「……具体的には?」


 「えーと、私、この同棲生活すごい楽しんでたんですよ。でも、同時にセクハラポイントがあるので、終わりがあるのはわかってたんです。だから、寂しいって気持ちがあるし、どうせ報われないんだろうなあっていう諦めもあったんです。だから、セクハラポイントに関しては、気にしてたけど、まあ溜まってもいいかなって言うのが正直なところでした。


 ちょっと、じぼーじき入ってましたね。


 でも、なんというか、ゆかさんたまーに受け入れてくれたり、許してくれるもんだから、どうしてもこう、期待があるんですよね。もしかしたら!? ワンチャンあるんじゃない!? みたいな。


 でも、そんなのないでしょーっていう思いもあってですね。こうやってただ隣にいるので幸せだよーゆかさん傷つけたくないよーっていう自分と、もうずっと苦しいくらいならいっそ無茶苦茶して思いっきりセクハラしちゃえーっていう自分が、結構な頻度で私の中で戦っていたのです。矛盾、むじゅん。


 ところがですね、ここで最近のゆかさん自分からスキンシップ来るよってなったのです。


 もー、私の脳内、大パニック!!


 大昔に死んだ第三勢力。これは想いかなっちゃうんじゃないの私が現れて、三つ巴大戦争です!!


 他の二人も今のスタンス崩したくないから徹底抗戦!!


 想い叶えちゃう私 VS 今が何よりの幸せだよの私 VS いっそセクハラしちゃいなよの私、の開幕です!!


 映画だったら最後に全員いなくなるやつですね。


 まー、でも。何より変わっていくのが怖かったんですね。多分。


 半年前に断られてからずっと、想いに行き場がなくて。でもそれに慣れちゃったから。


 ずっとゆかさんに片思いしてる自分って言うのに、安心感とか覚えちゃってたんです。


 苦しいけど、安心する、変わりたくないって思っちゃうんですよ不思議なことに。


 それに実は、私。今までの恋愛求められてばっかりで。


 私から求めるのって初めてで、それに相手が返してくれるかもしれないってのも初めてだったのです。えへへ。こんな気持ち、初体験なのですよねー。


 だからちょっと、自分の気持ちが分からなくて、ぼーそーしちゃいました! 以上!!」


 



 「……」




 意気揚々と、語り終えた私とは対照的に、ゆかさんは頭を抱えていた。あー、うん。


 「ゆかさん……大丈夫?」


 「まい……」


 「はい?」


 「……そんな重いこと、さらって言っちゃダメだよ?」


 「いや、今はちょっと、ゆかさんのおむねの感触を思い返すのに必死なので、軽めでいこうかなと」


 「そっか……私の……せいか……そっか」


 ゆかさんは頭を抱えてますます項垂れていた。おおう。


 「ゆ、ゆかさーん? 問題は、ほら、解決しましたから?! 私もう元気! 大丈夫ですよ? あ、ゆかさんが私のこと好きかもって勝手に思ったこと怒ってます? あれれ?」


 「…………そーじゃないの」


 「あ、ですよね。知ってます。うんうん、やっぱり今回も私の早とちりですよね。うんうん。ゆかさん女の子好きじゃないし。知ってます。知ってます」


 「……」


 ゆかさんががばっと顔を上げた。顔を赤くして、涙目で。あれ、やっぱりちょっと怒ってる。んー、これはいかがしたものか。


 「もー! まいなんて知らない!!」


 「ええ?!」


 ここにきて? なぜ?!


 「な、な、なんでですか! ゆかさん?! そんなに勘違いしたのが嫌でした?! ごめんなさい!!」


 「そこじゃない!!」


 「え? え?」


 「ふーん、ふーん、ふーんだ!! ずっと勘違いしときなさい!! 私もう知らないから!!」


 「え、ちょ、どこ? どこが勘違い?! ゆかさん、教えて! ヘルプ!!」


 「おーしーえーなーい!! ポイント10!! 全部で69!!」


 「どぅぇええええええぇえ?!!!」


 そうして、その日の夜更けは更けていきました。


 機嫌を直す方法を聞いたら怒った顔のまんまハグするように手を向けられたので、ハグしました。


 それから二人でひっついたまま、歯磨きをして、その日は一緒に寝ました。


 ゆかさんはずっと怒りながら、私の頭を撫でていました。


 なんで……?


 ちなみに、私は近くにあるゆかさんの胸を見て、ここにゆかさんが自分で誘導を……! と未だに興奮に浸っていました。


 その日は、夢に色っぽいゆかさんが出てきました。幸せでした。うへへ。





 ※






 今日の ーーーーポイント:13


 累計の ーーーーポイント:69


 今日、やべえ。

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