最終話 助けてくれた人
ふと目が覚めた。車は運転を続けている。私の家の近くだ。
信号が赤に変わる。車はブレーキをかけているのかわからないくらいゆっくりと優しく止まった。青に変わり、住宅街に入り、私の家の前で止まった。何故私の家がわかったのだろう。
「あの~…聞こえますか?」
車の中にマイクが付いていることを想定して話しかけたが、返事はない。
「あ…ありがとうございました。」
聞こえているか分からないがお礼を言って車を降りる。
降りたことを確認したのか、車がまた発進する。車を見送っていると後ろの窓のところに見覚えのある小さなトイプードルのぬいぐるみを見つけた。
「あ……!あれは……!」
そういえば、車の見た目も……!
……そうか、あなただったのか。
私が我に帰るきっかけになったあのぬいぐるみの「プピ」を鳴らしたのも、殺されそうになったときにクラクションを鳴らしたのも。山から家に送り届けてくれたのも。全部。
遠隔操作の運転とは、とんだ勘違いだ。
運転手はいたのだ。あの運転席に、ちゃんと。
そうだ。今日はあの山へピクニックに行く予定だったね。
「とんだピクニックになっちゃったね。」
直人が亡くなって初めて、涙が1つ零れた。
「ありがとう、直人。」
いつもは小さなトイプードルのぬいぐるみを見ると寂しさを感じていたが今日は暖かさを感じた。
車が見えなくなるまで大きく手を振って私は家へ入ったのだった。
トイプードルのぬいぐるみ 麦野 夕陽 @mugino
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